incu・be vol.47 博士論文執筆に関するアンケート調査結果詳細
『incu・be』vol.47の制作にあたり実施した「博士論文執筆に関するアンケート調査」では、113名の皆様にご回答いただきました(博士号取得者62名、修士号取得者・大学院在学者51名)。『incu・be』の紙面で掲載できる内容は限られますので、こちらのページで結果の詳細をお知らせします。博士号取得者の皆様、そしてこれから博士論文の執筆に挑戦する皆様の参考になれば嬉しく思います。
回答にご協力いただいた皆様には、改めて御礼いたします。
『incu・be』の冊子データはこちらのページからダウンロードできます。
また、リバネスIDを作成いただくと、『incu・be』をはじめとする定期刊行冊子のお取り寄せができますので、ぜひご活用ください(ご登録はこちらから)。
調査の背景と目的
incu・be vol.47では、博士の研究の中でも、特に「博士論文の執筆」という経験に焦点を当て、そこから得られる研究者の気づきと成長について考えました。博士論文を書く経験について考えるにあたり、執筆経験者がその経験をどのように捉えているかを明らかにしたいと考えました。しかし、少数の個人の経験談のみでは個別性が高くなることが懸念されます。そこで、執筆経験に関するアンケート形式の調査を実施し、研究者にとってこの経験がどのような気づきにつながり、どのように成長をもたらすのかについて考えてみました。
質問項目と回答結果
Q1. 博士研究の中で、特に博論を書き上げたことは、自分にとってよかったと思いますか?(博士号取得者が回答)
「そう思う」の回答の理由には、「複数の投稿論文がある中で、その集大成として取りまとめる機会としてよかった」「俯瞰して研究をまとめると、自分が本来何をしたかったのか、何をやりとげたかったのか、どのような道筋を立てたかなどを再認識できた」といった、複数の研究を一編の論文にまとめ上げる経験を挙げていた回答者が多く見られました。一方、「そう思わない」という回答の理由には、「通過点のひとつであった」「特に意義を感じなかった」という回答が挙げられていました。
「そう思う」の回答理由
【研究のまとめ・総括ができた】
- 数年間の研究を総括してまとめ上げる機会になった
- 自分自身の考えをまとめたものとして、正式に世に示せる唯一のものになったから。
- 博士研究として取り組み、複数の投稿論文がある中で、その集大成として取りまとめる機会としてよかった。
- 博士号は合わせ技一本で取れるものではないので、一見すると一貫していない複数のテーマを一貫したものに仕上げることが必要だった。この経験を通して、ストーリーを作る能力を養うことができたので、博士論文を書いて良かったと思う。
- これまでの研究を一つのストーリーにまとめることができたから。俯瞰して研究をまとめると、自分が本来何をしたかったのか、何をやりとげたかったのか、どのような道筋を立てたかなどを再認識できた。
- 自分の仕事の良いまとめになった
- それまでの多数の研究成果を1つの大きな論文(博士論文)にまとめるためには、別々であった元の各論文の研究背景や検討結果を、矛盾無く1つのストーリーやロジックに束ねることが必要であり、その試行錯誤や工夫の経験は後々の研究や仕事に活きていると思うため。
- きちんと自分の考えをまとめ、「研究者」としての存在を確立できるプロセスだから。
- ストーリーとしてまとめられる
- 学部から博士までの研究の集大成が博士論文によって完成したと思っているから
- 自分の研究を体系的にまとめられたから
- 複数のテーマを統合しながら、正しい表現と確からしい考察を積み上げる訓練になった
- 研究の総まとめだから
【知識・考えを整理できた】
- 自身のオリジナリティを整理し、明確にできたから。
- 分野に対する理解の整理
- 研究を言語化する事で考えをまとめることが出来たから。
- 自分の研究の位置づけの明確化や今後の研究の方向性の確認ができた。自分の言葉でまとめることにより理解が深まった。自分の知識や専門性のある領域を客観的に評価できた。
【自身の功績を残すことができた】
- 1つの成功体験、世の中に自分の創作物を残せた。
- 研究の背景を広く理解した上で整理して、アウトプットしたこと。多々あるデータの中から、主張したいことに合わせて論理を組み立てた経験が活きているから。
- 自分の研究の足跡が死後も残る形でまとめられたから。ただし、多くは原著論文と重なっていたので二度手間に感じる部分もあった。
【研究者として成長した】
- 博士論文で人はPI化する
- 自分がやってきたことは何なのか、本当にやりたいことは何か、自分の科学者としての軸がどこにあるのかを考えるきっかけになった。
- 研究計画やストーリー作り、論文にまとめるなど、研究遂行に必要な技術が身についたから。
- 「3年で終えるスケールの研究プロジェクトだから」と指導教員からあらかじめ聞いており、その中で最大のインパクトを出せるテーマを探して、自分で計画・売り出し方を考え、完遂させる・・・というプロジェクトを自力でひと回しできたため。
- 同じネタで何回も書き直したので、視点を変えながら考察する手法と意味を理解できたため。
- 論文の組み立て方を理解できた。
- 自分の研究してきたことが一つのストーリーとして他者へ、何より自分に対して研究者としての考え方をまとめる良い機会にはなったと感じる。
【研究に限らないスキル・マインド面の成長があった】
- プロジェクト管理能力が上がったと思います。
- よい訓練になった
- 研究者の指導のもとで成果を出す手法を学べたので。
- 論文の中身よりも、忍耐力、精神力がついた点で良かったと思う
- 一つの研究を、一定の水準・完成度までまとめ上げた経験
- 課題提起、仮説、解決法模索、ロジカルな展開、社会的貢献の視点等、一つのプロセスから多くの事を学べた
- イシューの見極め度が格段に上がった
- 限られたリソース、期間の中で、一定の結論を意識しながら、仕事をまとめるプロセス論を学べたから。職場でも報告書をまとめるときに同じ考え方を用いて仕事をしている。
- 論理的な構成を学び、これまでにない成果を発表できたから
- 自信になったため
- 多くを学べた
- トレーニングになったため
- 自信がついた
- 何かを達成する重要さを学んだ
- 壁にぶち当たりながら、苦労して書き上げるが、卒業してからの方がしんどいので、良い練習になってよい。
- 仕事に活かせているから。
- 博士論文を書き上げ、学位審査でディフェンスを行うことは決して容易ではない。その壁を乗り越えたことは今後の研究生活に非常に自信になった。
- ロジカルライティングの重要性を学ぶことができたから、またそのスキルを身に付けられたから
【節目となった】
- 研究を継続していく中で、チェックポイントとなった。
- 学位取得できたため
- 博士号を取得し、その後のキャリアが開かれたため
【その他】
- 長年の懸案をまとめることができた。
- 論文を一から執筆し完成させる作業は、他では経験できない。
- かなり苦しい体験だったが、他ではできない貴重なものだと思うし、見返した時によく書いたなぁと思えるから
「そう思わない」の回答理由
- 長い論文をまとめる初めての機会であるが、それによって何か得られたかというと、特段得たとは思っていないため
- 特に意味を感じない
- 通過点の1つであり、特に意味はない。
Q2. 博士研究の中で、特に博論を書くことを通して、自身が成長したと思いましたか?(博士号取得者が回答)
「成長したと思う」と回答した方には、成長が感じられた点を追加で尋ねました。その結果、「学問を学び、論文にまとめることで、その過程を包括的かつ俯瞰的に分析できた」「複数のテーマを一つのストーリーにまとめる考え方のトレーニング機会になった」といった、俯瞰的視座の獲得、研究のストーリーを構成する力の向上を挙げた回答者が多く見られました。また、「忍耐力」や「根性」といった精神力が培われたという回答も目立ちました。
成長が感じられた点
【論理的思考】
- 論理的な思考、やり切る、結果を出す
- 論理力の向上
- 博士論文を書くまではそこまでロジカルな構造を意識して文章を書くことは無かったが、博士論文を書くことで、どのような文章でもロジカルな構造を意識するようになった
- 論理的に考える力がついた
- 論理的思考
【俯瞰的視座】
- 学問を学び、論文にまとめることで、その過程を包括的かつ俯瞰的に分析できたため
【ストーリー構成】
- 複数のテーマを一つのストーリーにまとめる考え方のトレーニング機会になった
- どう研究をストーリー立てて文章で伝えられるか。
- 過去の論文を読み漁り、広い知見の中から、自分の研究意義を改めて整理し、自分の研究の意義を主張するための論理の組み立て方を学んだから
- ストーリーを作る能力が身についたと思う。
- 非常に長い文章を一つの切り口で語り、表現し切る能力が培われた
- 一見関係のないテーマを繋げる能力、一見失敗した実験から意味を見出だす能力
- ストーリー構成力
【オリジナリティの再認識】
- 過去の研究者の蓄積がある中で、自分のオリジナリティがなんなのかを投稿論文よりも明確に意識することができた。
- 他者とは違う、哲学(Ph.D=philosophy of doctor)を提示できるプロセスだから。
【視座のアップ】
- 投稿論文ではそれぞれの研究結果に基づいて独立した内容であったが、博士論文では、個々の研究成果の寄せ集めではなく、取りまとめた内容として書き上げるところで少し高い視座で博士研究を振り返ることができた点で、成長につながったと思う。
- 自分を客観視する力、研究成果を論文としてまとめる力
【その他】
- PI化するから
- 結果を意識して行動するようになった。ストレス耐性がついた。根回しの重要性を知った。
- ①研究の種を見つけて、プロジェクト化し、ある程度の大きさに広げて、最後はまとめるまでの一連の流れに関する知識・経験を得た(最終的に出版しました)
- ②「これについては一番詳しい、自信をもって語れる」という専門性を余裕をもって身に付けられた(課題発見・インプット・アウトプットをすべて高水準で取り組めるのは学生の期間ぐらいかも。今もやっていますが、どうしても時間的に無理がある)
- 論文を書く苦労と喜びを理解できた
- 成果を出すための姿勢が学べたので。
- 計画性、見通しの立て方、人との関わり方など。
- 英語力が向上した。
- 英語力が向上した。
- ゴール設定して、全体設計をすること
- 研究を理解できた
- 相手にどうやったら伝わるか考え、書くを繰り返すことで、プレゼン能力が上がった。
- 英語
- 前の質問のよかった点に加えテーマ設定の段階で確実に成果を出せるテーマから到達したい点までを見据えて、バックアッププランを意識しながら成果を出し、表現する力を得られた
- 実験結果を論理的に組み上げ、それを基に考察するという、科学論文の基礎を学ぶことができた。
【根性】
- どこにも回答がないような課題にひたすら向き合う根性が前よりできたかと思います。
- 何度もダメだしを食らっても前進できた。
- 忍耐力
- 我慢強く(粘り強く)なった
- 一つの結果に一喜一憂せず、腰をすえて考えるようになった。
- やり切る力が一番ついたとおもう
- 根性が鍛えられた
- 諦めずに前を向く姿勢がついた
- 独力で研究を実施する能力
- 粘り強さ。一つの論を作ることが重要だという教訓が今後の自分の成長に繋がるはず。
Q3. 博士論文を書く上で一番大切なことは何だと思いますか?(博士号取得者と未取得者の両方が回答)
取得者と未取得者の回答を比較すると、「俯瞰」というワードが取得者のみから得られた点が特徴的でした。また、どちらの回答でも「精神力」は重要だと認識されている様子が伺えましたが、未取得者では情熱や意欲・面白さといった回答が代表的だったのに対し、取得者では忍耐力・我慢強さ・根性といった回答が多く見られました。
博士号取得者の回答
【論理的構成】
- その世界初をどのように導いたか、論理的な構成をイメージすること
- 自らの意見を自分のちからで組み上げて、それを説得できるだけの根拠を揃えること。
- 研究の目的とそれにいたる背景を論理立てて説明すること。
- 研究成果を論理立てて詳細に記載する
- ロジカルな構造を意識すること
【俯瞰】
- 研究分野の背景を俯瞰し、大きな流れの中で自身の研究を位置付けること
- 自分の研究の社会的位置付けを理解していること
- 博士論文を書く上では、分野の理解が自分の中で整理されていること、その中での研究の位置付けが理解できていることが大事”
- 異なる研究内容や結果が思うようにいかないものを、つじつまを合わせ大義名分の元にまとめる能力。
【新規性・インパクト】
- まずは自分のデータの新規性。その上でこの業界の中にどれだけのインパクトを与えることができるかを論理的に説明できること
- 戦略立案能力(研究の種を見つけて、その面白さをアピールし、学術市場での位置づけを考えて、売る・・・の設計力)
- 一つの論を組み立てるために、個別の研究計画と成果を設計していくこと。世界で初めての発見をすること。
- 新規性、論理性、普遍性、再現性、読者に意味があること。
【戦略】
- 指導教官の助言は聞きつつも、自分で能動的に判断し、何度も試行錯誤しながら、限られた期間内で書き上ること。それを通し、仕事をまとめる、アウトプットのまとめ方のプロセス論を学ぶこと。
- 自分のオリジナリティや研究成果をどのような切り口で見せながら発信するかを考えること。
- 常に先のことを考えながら戦略的に行うこと。
- それまでの実績
【文章力】
- 読者の立場に立っての文章作成力
- 客観的なライティング能力
【体力・精神力】
- 書ききること。案外難しい。
- 忍耐
- 止まらないこと
- 前々質問の回答にあるような作業は大変で、それに対して得られる具体的メリット(明確な収入増や役職の向上)が無いため、諦めずにやり抜く精神力が大切です。(特に自分は社会人博士であり、通常業務の傍らで博士論文を執筆したため)
- あきらめないこと
- 体力、精神力
- 体力?
- 第一に、めげない・負けない気持ち。第二に連想力
- 闘争心
- 忍耐
- 忍耐力
- 諦めないことと、自分の考えや理論を信じることだと思います。調査すればするほど既にある気がして心が折れそうになるので、同じ内容でも書く人が違えば絶対独自性が出るんだくらいの気持ちが大切でした。
- 事象を掴んだら実験に失敗しても、信じて結果を得ること。
- 忍耐
- 論理性
- 周囲(ラボ、親族、友人など)との調和、心身の健康
- 諦めない心
- 粘り
- “ポジティブでいること。
- 忍耐力
- 健康管理
【意欲・興味】
- 研究に対する情熱
- 自分が面白いと感じて意欲を持てること
- 研究に対する情熱
【継続性】
- 毎日何か意味のある結果(ポジネガ問わず)を出すこと
- 継続すること
【その他】
- 誠実。誠実にデータを扱い、誠実に理論を構築すること
- 博士論文を書く前に論文を複数出しておくこと。博士論文は編集作業として捉えた方が妥当だと思います。イントロダクションに重きを置くためにも、中身は早めに仕上げておくことが望ましいです。
- 新規性、論理構成、精神力
- 事実と思いの切り分け
- 研究成果を形として残すこと
- 結果からだけでは分からない苦労、思考プロセスについて詳細に書くこと。出来なかったことも書くことで、後々の研究者の役に立つ。
- 未知のことへの好奇心
- 指導教官とコミュニケーション
- 自らの現段階の力量を許容しながら高みを目指そうとすること
- 1つのことに縛られず、多角的な視点を持つこと。また、流行に飲まれずまだ明らかになっていないことを着実に詰めること
- 一から自分の力で、ひとまず書き上げること。
- “博士論文がゴールではなく、それはスタート地点。
- 一生ついて回る、鬱陶しくも大切なもの。”
- 時間をかけないこと
- 「自分はどんな研究者か」を占めるためには情報(自分発研究アイデア、成果)が多いほうが良い、のかな。
【哲学】
- 上記。単に一つの内容を明らかにすることでは決してない。あくまでも自分の哲学をまとめることが重要。それはPh.Dを取得している人にも言えることであって、自分の哲学を持っていない人は取得した価値はないし、その後のキャリアには役に立っていないので、それができないのであればそれを活用してキャリアを進めるべきではない。
- “博士論文を書くまでに以下に、多様な考え方を持って、それを研究テーマに落とし込んで、結果、成果を出せたか。その後で、あちこちに散らばった思考を一つに束ねて、自分の研究者としての考え方を示せるか。
【問い】
- “博士論文を書くというよりは、博士をとるプロセスで問をたてること、現象を明らかにするために実施可能な手法を組み合わせて問いに当たることの大切さを理解できた。また、科学に対する理解の幅を広げることができた。
- これまで博士課程で行ってきた研究を俯瞰して捉えること
未取得者の回答
【精神力・体力】
- 体調
- 体力
- 忍耐
- 実験と考察を続ける精神力
- 精神力
【テーマ設定】
- (研究の)テーマ選択
- 課題設定
- 仮説の切り口
- 研究テーマとその目的
- 適切な問い(テーマ設定)を立てられていることと、そこでの一定の成果が得られていること
- 自分で研究テーマを設定する能力
- 問いの設定と、その実験デザイン
【新規性】
- 新規性。
- 視点(人と違う)
- どこが世界初なのか。
- 新規性
- 提案の新奇性と論理の細やかさ
【意欲・興味】
- 自分がやりたいテーマかどうか
- 自分の興味にいかに合致しているか
- 研究への情熱
- 研究への意欲
- 熱意
- テーマの選び方。それで書ききれるのか?自分はそのテーマに自分はパッションをもって取り組めるのか?
- 自分の研究が好きであること
【研究の基礎力】
- ある実験結果をうけて、次の実験を計画し、実行できること
【研究の意義】
- 博士課程に進学しませんでしたが、20年近くたって今思うことは、この研究がどのように世の中に役に立つのか、を分かりやすく書くべきと思います。
- 自分の研究の意義を世界規模で考え、揺るがない芯を持っていること
- 新規発見が如何に次の科学を発展させるかをイメージさせられるか
- 学術論文としての価値
- 内容(結果というわけではなく、研究意義)
【論理性】
- 理路整然としてること
- 論理的思考
- 論理が一貫していること
【その他】
- 時間とお金
- 論文執筆するための安定した環境(研究面、生活面)。ざっくり言えばお金があるかどうか。
- 論文の内容は、一貫性のある研究テーマの設定すること。執筆については、博論に対する過度な期待や完璧さを求めすぎないこと。
- 考察
- 課題解決力と課題解決スピード
- 正しいデータの積み重ね
- 自分が研究していることをまとめる能力
- 内容の密度・濃さ
- 自分の研究スタイルを確立すること
- ストーリー
- 人間関係
- 計画性
- 一番詳しくなれる分野を発見すること
まとめ
アンケートの結果から、博士論文を執筆した経験はおおむねポジティブに捉えられているようです。特に、複数の研究を一編のストーリーにまとめ上げる経験は博士論文に特徴的なものであり、その経験を通じて研究領域と自身の研究を俯瞰的に捉える視座が得られることに意義を感じている回答が目立ちました。また、博士論文を書くうえで、一番大切なことについては、「俯瞰」というワードが博士号取得者のみから得られた点が特徴的でした。博士論文の執筆経験を議論するうえでキーワードとなり得ると考えられます。また、俯瞰の結果として、「自身の研究の意義やオリジナリティの認識」「研究者としての軸」の発見が得られた点がよかったという記述も見られました。こうした調査結果から、博士論文の執筆経験が研究者にもたらす成長について下図のような仮説を提案できると考えられます。
今回の調査が博士号取得者の皆様、そしてこれから博士論文の執筆に挑戦する皆様の参考になれば幸いです。リバネスでも、研究者のキャリア開発や、研究活動に関する今後の取組に活かしていきたく思います。
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調査に関する詳細
本調査は、2019年10月16日から同11月7日の期間に、インターネット上にて実施しました。回答した博士号取得者62名のうち、博士号を取得して1年未満が6.5%(4名)、2~5年目が43.5%(27名)、6~10年目が32.3%(20名)、11年目以上が17.7%(11名)でした。博士号取得者の所属は、民間企業・官庁61.2%(38名)、大学や国立研究機関37.1%(23名)、不明1.6%(1名)でした。専門分野は自然科学系57名、社会科学系2名、人文科学系1名、学際領域(学術・芸術工学)2名でした。博士号未取得者51名にも調査を実施しました。こちらの内訳は、現役大学院生が33名、修士課程修了後大学院院外に所属している方が18名でした。