学生とともに歩む

学生とともに歩む

東京薬科大学 生命科学部 環境分子生物学研究室
時下 進一 講師

環境分子生物学研究室から出てきた学生が時下先生に声をかけた。声の初々しさに驚くと、彼らは東京薬科大学生命科学部の2年生だという。希望者は早くから研究室で受け入れる。この特徴的な生命科学部の教育方針を支えているのは、学生とともに歩むひとりひとりの教員たちだ。

大学教員の責任と楽しさ

東京薬科大学に日本で初めての生命科学部を設立した時、最先端科学の追究とともに研究人材の育成に関しても活発な議論が行われた。その中で生まれたのが、各教授に10名弱の学生が配属されて行われる1年生必修の少人数ゼミだ。さらに、2年生からは希望者に対して卒研生と同じように研究ができる制度もあり、早くから研究室へ学生が足を運ぶ環境を用意している。大学院では所属研究室以外の指導教官が学生をサポートする。名古屋大学で博士号取得直後に東京薬科大学に赴任した時下先生も、これまで多くの学生を受け入れてきた。
「私は研究室の助手の先生や教授に助けられて、学生時代に研究の面白さを知ることができたから、現在まで研究を続けることができました。だから、大学教員として仕事をするということは、研究だけではない教育者としての責任があると思います」。
学生の育成は責任だけでなく、時下先生に楽しみももたらしてくれる。最初は与えられたテーマだったのが、学生の中で次第に自分のテーマへと変わっていく。そして、学生がディスカッションの場で、教授や時下先生も知らなかった情報や新しい仮説を提示してくれる瞬間が教員としても、研究者としても嬉しくてたまらないという。

ひとりひとりが研究を推進する

時下先生が携わるミジンコ類の環境応答の分子機構の解析は、環境分子生物学研究室の創設時に、山形教授とともに新しいことに挑戦しようと始めたものだ。それまでミジンコに関する分子生物学的な研究は日本では行われていなかったこともあり、研究は手探り状態だった。ミジンコの飼い方を他の研究所の生態学の先生に教わるところからスタートした。ある時、ミジンコが赤くなることに気づき、そこからヘモグロビンに注目して環境と個体の分子機構の関係を示す研究へと発展してきている。発展の方向性を決めてきたのは、時下先生はもちろんのこと、卒業していった多くの学生の興味や研究成果だ。学生とともに研究を進めてきたという想いは強い。

分野の溝を埋める人材育成

「通常はメスのみの単為生殖を繰り返し、環境が悪化した時にはオスが生まれて受精卵がつくられるというミジンコのライフサイクル。これを知った時にすごく面白いと思いました」。時下先生は、何がオスを生ませる原因になるのかをいつか明らかにしたいと考えている。これからは遺伝子やタンパク質による分子機構の解析というミクロな研究の結果を生態学や環境学といったマクロな研究に融合させることが必要だ。そのためには、ミクロとマクロの間をつなぐ人材を時下先生は育成したいと考え、実際にその方法を模索している。
現在、環境分子生物学研究室では生態学研究室所属の学生が研究をしている。研究室の垣根を越えて交流することは、効果的な人材育成のひとつの方法だ。「どんな研究も、一人でやっていくのはもう不可能です。ひとつの研究対象に対していろいろな人が各々の立場からアプローチし、その中で新しい技術や発見が生まれてきます。いろいろな人と協力して研究を進めるコミュニケーションスキルも重要です」。ともに研究をする中で、学生は時下先生のメッセージを受け止めていく。そして、今年もまた新たな学生の登場を時下先生は待っている。


東京薬科大学
所在地:東京都八王子市堀之内1432-1

URL:http://www.toyaku.ac.jp/