振り返れば、自分の道ができていた|白髭 克彦

振り返れば、自分の道ができていた|白髭 克彦

東京工業大学 生命理工学部 白髭 克彦教授

「最初から確固たる目標や,気負いはいらないんじゃないかな。目の前のことを一生懸命やっていれば,いい方に転ぶはず」。迷いながら歩み続け,長い時間をかけて自分の道を見つけた白髭さんは,自らを振り返りそう語った。

まっすぐ歩んできたわけじゃない

高校生の頃の夢は,数学者だった。しかし大学に入って半年で,大学の授業についていけず,断念した。その後超伝導,レーザーと興味が移っていったが,手が届かずにあきらめてきた。打ち込めるものがないまま歩んできた末,指導教官の「生物が向いているんじゃないか」という言葉に導かれて始めたのが,酵母の研究だった。

丹念な観察を,ただひたすらに

酵母は,パンやアルコールをつくるときに用いられる単細胞生物だ。外見はヒトとはかけ離れているが,基本的な生命現象は驚くほどよく似ている。その酵母を使い,DNA複製の研究を始めた。通常,生き物は細胞分裂をする際にDNAを2つに複製(コピー)する。このとき,まずDNAの特定の配列を持った部分にタンパク質が結合し,そこからDNAの複製が始まる。しかし,その配列がどこにあるのか,どんなタイミングで始まるのか,分かっていなかった。白髭さんは16本ある染色体のうち,約28万塩基対の6番染色体を徹底的に調べた。3年間の研究の末に9カ所の複製開始点を見つけ,それが働くタイミングや,結合するタンパク質を調べていった。

手に入れた,ひとつの自信

研究には,「この生命現象を解明したい」と最初に目標を持って始めるスタイルと,ひたすらデータを集めた後「何がいえるだろう?」と考えるスタイルがある。白髭さんがとる後者のスタイルは,技術の向上が目的と見られてしまうこともある。そこに迷いを感じ続けていた。しかし,確実なデータがなければ,どんなに考察しても意味がない。長いDNAのどこに,いつ,どんなタンパク質が結合するのか,もともとあった技術では数十カ所を大雑把に調べるのに3〜4日かかっていた。それを600万カ所について一気に,正確に調べあげるChIP-chip法という技術を作り上げたとき,自分のスタイルにようやく自信が持てた。大学に入って以来,行きたい道に手が届かないことばかり。成績が足りない,教授に「向いていない」といわれる。特に打ち込めるものがなく,これといった目標がなかった学生時代。研究を始めてからも,自分のやり方は正しいのか,迷いながら実験を続けていた。それでも人一倍の頑固さと情熱を持って20年間研究を続けてきた今,人並みの自信を持ち,研究の最前線を歩んでいる。(文・西山哲史)

白髭 克彦(しらひげ かつひこ)プロフィール

1988年東京大学教養学部基礎科学科卒業。1994年大阪大学医科学研究科で学位取得後,奈良先端科学技術大学,理化学研究所での研究員を経て,2004年東京工業大学に赴任。

研究科ホームページ:http://www.bio.titech.ac.jp/out/information/grad/bs/