手のひらに乗る「宇宙」|宮崎 康行

手のひらに乗る「宇宙」|宮崎 康行

日本大学 理工学部航空 宇宙工学科 宮崎 康行教授

一辺10cm,重さわずか1kg。学生たちがつくった手のひらサイズの人工衛星「SEEDS(シーズ)」は,さまざまなセンサーや通信装置,それに大きな夢を載せ,今日も地球の周りを飛んでいます。

手のひらサイズの人工衛星

人工衛星といえば気象衛星「ひまわり」など,日常のためになくてはならない存在。地球の周りを数多くの衛星が飛び交う中,小型の衛星をロケットの隙間に載せて宇宙へ飛ばすプロジェクト「cubesat(キューブサット)」が1999年,日米の大学で始まりました。宮崎さんの研究室では,学生たちが衛星にどんな機能を載せるか考え,電子回路を設計します。そして真空中や激しい温度差など,厳しい宇宙環境の中でも働き続けられるかを地上で徹底的にチェック。そうして5年間かけてつくったSEEDSは2008年4月28日,宇宙へ飛び立ちました。

宇宙空間を実験室に

SEEDSの目的は,通信装置などが「宇宙で壊れず動く」ことでした。それが達成できた今,次の目標は「宇宙で実験をする」こと。研究の目指す先にあるのは,燃料が必要ない宇宙船です。大海原に帆を張り,風を受けて走るヨットのように,宇宙空間に大きな帆を張って進む船。「ソーラーセイル」と呼ばれるその帆は太陽光を受けて反射し,反作用の力で進みます。推進力は光の強さと帆の面積に比例し,実用のためには厚さ7.5µmの薄膜でできた直径40mの帆が必要です。その巨大な帆が破れないためには,どう広げればいいか。これまでコンピューターのシミュレーションで調べていましが,これからは違います。次に打ち上げ予定の衛星「SPROUT(スプラウト)」で一辺80cmの帆を広げ,宇宙空間での薄膜の動きを解析。さらに,JAXA(宇宙航空研究開発機構)のソーラーセイルミッションに開発段階から参加し,2011年には国際宇宙ステーション(ISS)での実験を予定しています。

宇宙は挑戦の場

宇宙開発の技術は実験がなかなかできないため,理論での予測が多くなります。「実際には何が起こるかわからないからこそ,予測しがいがあるし,これから実験で確かめられるのが楽しい」。宇宙を遠い世界のままで終わらせたくない。その想いを胸に抱き,学生とともに挑戦を続けていきます。(文・西山哲史)

宮崎 康行(みやざき やすゆき)

宮崎 康行(みやざき やすゆき)プロフィール:

1993年東京大学工学系研究科航空学専攻博士課程修了。博士(工学)。日本大学理工学部航空宇宙工学科に助手として赴任し,講師,助教授を経て,2008年より現職。