ゲームづくりに理系、文系の区切りはない|三上 浩司
東京工科大学 メディア学部 講師
世界中から集まった最新のコンピュータゲームを見たり体験できたりする東京ゲームショウ。遊びあふれるその場所に大学の研究者がいた。三上さんはゲームやアニメーションなどのコンテンツを開発する方法を研究している。ゲームをつくるための研究だなんて,聞くだけで何だかとてもおもしろそうだ。
ゲームはあらゆる分野の融合でつくられる
ゲームの制作,と聞いて思い浮かぶのはコンピュータのキーボードをたたく姿かもしれない。しかし,それは制作のほんの一部でしかない。ゲームはシナリオ作家や音楽家や芸術家,プログラマーなど,さまざまな専門家が集結してつくられるのだ。たったひとつのシーンにも,絵をどの方法で描き,どのような手順で音楽や背景,動きなどを組み合わせ,データを保存・出力していくのか,パターンは無限に存在する。ゲーム制作に出会ったのは,大学卒業後のこと。海外で開発されたゲームのサービスを日本で事業化する仕事に携たずさわった。会社の設立から組立工場への部品の手配,マーケティング,広報活動までひと通り挑戦した。世の中を動かすことに自分が携われていることが,とにかく楽しかったという。
アニメ・ゲーム制作の「研究所」を大学に
多くの制作者たちと出会う中,最高の作品づくりを貪欲に追求する彼らの純粋な思いに感化され,モノづくりの部分に関わってみたいという思いが強くなった。その中で,制作現場の問題点も見えてきた。長い間,ゲーム制作のプロセスや技術は大手制作会社内部だけの秘密情報として扱われるケースが多かった。世の中には優れた作品をつくれる人はたくさんいる。その力をつなぎ,よりよいものをつくり上げるためには,広く成果を出せる大学で研究する必要があると考えたのだ。三上さんは日本のアニメーションで初めてCG を使った金子満さんとともに,東京工科大学でゲームやアニメーションなどのデジタルコンテンツの制作に関する「研究所」づくりをスタートした。
創造性を活かせる「マニュアル」を
三上さんが考えたのは「最高のものをつくるにはどうしたらよいか」というシンプルな問い。課題は,制作チームごとでばらばらだった技術や工程を業界のスタンダードとしてまとめること。もうひとつは,それによって作品の創造性や独自性を壊さないこと。この相反する課題を解決することを目指し,技術の内容や利用法ひとつひとつを理解しながら利点や欠点を抽出していった。三上さんは,ゲームなどのコンテンツ開発を「細かい技術をつなぐサイエンス」と表現する。仮説,実験,検証をくり返すのは他の研究と同じ。アニメーションの分野での専門家たちと話し,制作現場で実証試験を行いながら,作画や彩色の工程から色彩工学や各技術の基礎,データの保管方法など,これまでにはなかったマニュアルをつくり上げたのだ。現在,この研究成果は,世界的に有名なアニメスタジオなど多くの現場で活かされている。
異なる分野と当たり前に触れ合うこと
高校では理系と文系のどちらかのクラスに分かれることが多く,2 つを分けて考えてしまいがちだ。高校時代は理系,文系問わずすべての教科が好きだったという三上さん。進路を選ぶときにもあまり理系,文系は意識していなかったという。大学時代は,情報が都市間を流れる様子をモデル化し,情報の経路と都市の発展をとらえようという研究をやっていた。社会学や経済学で扱うような対象を数学的にとらえる発想は刺激的だった。また,数学的な知識だけではなく,政策や道路網などの授業も研究に活かされた。そんな三上さんだからこそ,専門家を「つなぐ」ための研究ができたのだろう。「自分の研究のどこが理系,文系といわれると何だろう?と悩んでしまう。私がやっていることは,芸術,社会学,情報学などさまざまな分野が融合していてもう区別がつかない。分けることで逆にその技術やしくみが活躍する場が狭まってしまう気がする」。今も変わらず,「どんな分野も学び,あらゆる専門家と話をする」を貫くスタイルが,新しいものを生み出す力になるのだ。(文・楠晴奈)
三上 浩司(みかみ こうじ)プロフィール:
1995年慶應義塾大学環境情報学部卒業後,日商岩井株式会社に入社。新規メディアビジネスの立ち上げなどに従事した後,株式会社エムケイを経て,1998年より東京工科大学クリエイティブ・ラボの立ち上げに参加。2007年より現職。その傍かたわら202年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了,2008年同後期博士課程修了。博士(政策・メディア)。