ブラックホールの姿を求めて |北本 俊二
立教大学 理学部 教授
宇宙に浮かぶ暗黒の空間,ブラックホール。実は誰ひとりとして見たことがなく,存在するという確実な証拠もありません。その実体を観測する日を夢見て,日夜研究を重ねる研究者がいます。
暗黒の周りで光り輝く円盤
ブラックホールは,太陽よりも20倍以上大きな質量を持つ星が爆発した後,星の中心核が自分の重力に耐えられずにつぶれてできる空間。光さえ脱出できないほどの重力で,もし見ることができたら,宇宙空間に真っ黒な「穴」が空いたように見えるはずです。その巨大な重力は周囲の物質を引き付けます。そして,多くの物質はその強い重力とつりあうようにブラックホールの回りを高速で回転し,降着円盤と呼ばれる円盤をつくります。降着円盤では物質どうしが激しくぶつかりあい,1000万度以上の超高温ガスになってX線などを放出しているのです。
X線で宇宙を見る
1988年,北本さんたちは人工衛星「ぎんが」に搭載された検出器で宇宙空間のX線源を探していました。レントゲンでも使われているX線ですが,宇宙空間の超高温ガスからも放射されているのです。探査は1日に一度,検出器をぐるりと回して全方位を撮影します。その年の4月23日,こぎつね座の中にX線を放出する天体を発見。それは,新発見のブラックホールの候補でした。
誰も知らない姿を見たい
降着円盤の中心には何があってどうなっているのか,いまだに計算による予測しかできません。現在の技術では,はるか彼方のX線源のかたちまではわからないのです。それを実際に観測したい,というのが北本さんの夢。より遠くをはっきりと見ることができる望遠鏡をつくれば,光り輝く円盤の中央に真っ黒な穴が見えるはずです。それが見えたとき,ブラックホールの存在は確かなものになります。その夢に向けたプロジェクトをX-mas(クリスマス)計画と名付け,X線反射鏡やセンサーの改良を行っています。「研究は“変な”ものがどのくらい変なのかを知るのがおもしろい」と北本さんはいいます。宇宙で一番変なもの,ブラックホール。存在が確認されたとき,もっと変なものがいっぱい出てくるはず。わからないものを知りたい,という好奇心が続く限り,研究が終わることはないでしょう。
北本 俊二(きたもと しゅんじ)プロフィール:
1980年大阪大学理学部物理学科卒業。同大学で学位取得後,助手,助教授を経て2001年より現職。