100兆分の1へのこだわりが地球を守る|西宮 信夫

100兆分の1へのこだわりが地球を守る|西宮 信夫

東京工芸大学 工学部 電子機械学科 教授

遠く離れた場所を指すポインタや治療に使われ,他の光とはちょっと違う印象のある光である「レーザー」。一部の波長の光だけを束にしたもので,強力なために遠くまで届けることができます。このレーザーを使って環境問題を解決できないか。東京工芸大学の西宮信夫さんは,そんな研究をしています。

14桁を自在に操る

すべての物質は,特定の波長の光を吸収します。その性質を利用して,たとえば河川の水や実験サンプルの中に目的の物質がどれくらい入っているのかなど,さまざまな濃度測定が行われています。その精度は,使う光の波長を正確にコントロールできるか,吸収された光の波長をどれだけ精密に測れるかによって決まるのです。西宮さんは,光の周波数の測定法や,波長を安定化したレーザーの開発を行ってきました。可視光や赤外線のレーザーは,波長数百nm,1秒間に振動する回数(周波数)は数百兆。14桁もある大きな数字で,これを電波のように下1桁まで正確に,しかも自在にコントロールすることができれば,まったく新しい世界が開けるといわれています。物理学を学ぶ者にとっては非常にワクワクする研究。そして西宮さんは,それと並行して環境問題にも焦点を当てることにしました。身近な課題について学生と一緒に研究をしたいと考えていたからです。

場所を選ばず環境調査

環境問題の中で注目したのが,温室効果ガスといわれるCO2の濃度測定です。これまでのデータは地表で測定されたものがほとんど。しかし,大気は地球上を立体的に動いています。上空のCO2濃度の測定は飛行機に測定器を載せて行われていましたが,都市や海上,森林など好きな場所で測定することはできません。それを解決するのがレーザーを使った測定方法。CO2が吸収する波長のレーザーを上空に向けて出し,反射してきた光を解析します。この方法なら,場所を選ばずにリアルタイムで精度の高い測定ができるのです。

こだわることが力になる

レーザーの周波数が持つ,14桁という桁数の多さにおもしろさを感じて研究を始めたという西宮さん。どんなことでもいいから,科学的な目でこだわりをもって追求してほしいと言います。自身も中学生の頃,熱帯魚にはまって部屋中水槽だらけにし,進化の過程を調べ上げたほどの凝り性だそう。「とことんやって飽きてもいいんです。それが,後に何かを調べるときの力になるから」。こだわりが,新たな挑戦への原動力になるのです。(文・三浦茉純)

西宮 信夫(にしみや のぶお)プロフィール:

東京工芸大学工学部電子機械学科教授。1981年東京理科大学修士課程修了。2003年米国JILA研究所,2007年より現職。博士(工学)。