「光合成」から生み出される新しい技術|大月 穣

「光合成」から生み出される新しい技術|大月 穣

日本大学 理工学部 物質応用化学科 准教授

太陽光を受け,自身が活動するエネルギーを得るために「光合成」を行う藻類や植物たち。太古の昔に彼らが生まれて以来,ずっとその営みが行われてきました。これを人工的に再現することができるようになったら,どんな未来がやってくるのでしょうか。

光を当てると電子が動く

光合成を行うのは細胞内の「葉緑体」という部分。まず,「アンテナクロロフィル」によって集められた太陽の光エネルギーは,その隣にあるクロロフィルへ,そしてまた隣のクロロフィルへと,次々に効率よく伝えられます。そして最後に「反応中心クロロフィル」へと集められ,炭水化物をつくり出す力となる電子のエネルギーに変換されるのです。日本大学の大月穣さんは,このような「光エネルギー変換」を人工的な分子で行う研究をしています。「化石燃料が枯渇し,太陽光エネルギーを使わないといけない世の中でお手本になるのが光合成。クロロフィルのように光を当てると分子内で電子が動くようなものができないかと考えたのです」。

分子から分子へと

光合成は,光の吸収,エネルギー移動,さらに電子移動を司る機能を持った分子が組織だって並び,行われています。これを人工的に再現するということは,合成した分子のひとつひとつがそれぞれに機能を担い,それらが共同で高度な働きをする分子の組織を形成するということ。しかし,光合成のすべての過程を人工的に行うことはまだ困難です。大月さんはまず,その過程を部分的に分解し,その一部を行う分子について研究しています。たとえば,光エネルギーを集める分子を5つ集めた集合体をつくり,その中でエネルギーを効率よく移動する系を発見しました。「この集合体では,光合成の一部を人工的に再現できています」。

ミクロの世界から始まる最高の技術

大月さんは,光合成を完全に再現できる分子を植物が育たないような場所にまいておき,エネルギーを得ることができるようになることを目指しています。「分子は機能を発現する最小単位。だから,分子から設計して組み立てていけば,最高のものができるはずだと思うのです」。目には見えない分子をコントロールすることが,新しい技術の指針となるのでしょう。(文・磯貝里子)

協力:大月 穣(おおつき じょう)プロフィール:

日本大学理工学部物質応用化学科准教授。1991年,東京大学大学院工学系研究科を修了後,1999年まで同大学生産技術研究所にて助手を務める。1993年から1年間,Universite Louis Pasteur博士研究員を経て,1999年より日本大学理工学部に赴任。2004年より助教授,2007年より現職。