助けすぎない「不完全」ロボット|岩瀬 将美

助けすぎない「不完全」ロボット|岩瀬 将美

東京電機大学 未来科学部 ロボット・メカトロニクス学科 准教授

これから暑くなる季節,クーラーが恋しくなりますよね。しかし,機械の温度調節に依存すると,からだに本来備わっている体温調節機能が衰えてしまうことが指摘されています。そんななか,「不完全なロボット」の研究が注目されています。

誰でも3日で一輪車に乗れる

東京電機大学の岩瀬将美さんが手がけているロボットのひとつが「一輪車」。ひとつしかない車輪を乗りこなすには,複雑なバランス制御が必要に思えますが,「前,横,ひねり」という3つの力に分解することができます。岩瀬さんは,前後左右の傾斜を自由に調節できる特別な床に一輪車を固定し,前後だけ,または左右だけのバランス練習ができる特別なマシンをつくりました。「前後」と「左右」,そして「ひねり」の3つの動きを別々に練習してから組み合わせると,初めての人でも1日2時間,計3日間練習すれば一輪車に乗れるようになるという結果が出ました。複雑に見える人間のバランス制御も,分解して再構築することができるのです。

人間の能力をアシストする

現在岩瀬さんは,自転車を安全に走らせるためのバランス制御の研究に取り組んでいます。単純に車輪を太くするシンプルな方法から,自動でバランスを取る「自転車ロボ」まで,さまざまな研究が行われていますが,岩瀬さんは「ロボットではなく,人間による操作をメインにした,能動的なアシストが大事」と言います。すべての動きを手助けすると,人間の脳は働かなくなってしまいます。ロボット開発では,私たちの能力を活かした制御機構を考えなければいけません。たとえば,重みだけをゼロにする補助機器をハンドルの下につけると,重い荷物を楽に運ぶことができるようになりますが,同時に自転車を漕ぐバランス能力もこれまでと変わらず必要になります。「ロボットの開発には,人間を知ることがとても大切。今後は脳科学などの異分野との融合を目指したいです」と,意気込みを語ってくれました。

ロボットと暮らす未来

体温調節機能の低下を防ぐエアコンや,履くだけで筋肉トレーニングができる運動靴など,私たちとロボットが共存する未来は,多くの可能性に満ちあふれています。「周りにある便利な機械を当たり前だと思わないでほしい。なぜだろうと考えれば,いろいろな答えがきっと見つかるでしょう」。(文・伊地知聡)

岩瀬 将美(いわせ まさみ)プロフィール:

東京電機大学未来科学部 ロボット・メカトロニクス学科 准教授。2001年東京工業大学大学院理工学研究科制御工学専攻修了。博士(工学)。東京電機大学理工学部情報システム工学科助手を経て,2007年より現職。制御工学を軸としたロボット,メカトロニクスの研究をしている。