光る分子で探しもの|菊地 和也
大阪大学大学院 工学研究科 教授
真っ暗な部屋で何かを探すとき,光ることでその在処を教えてくれる探知機があれば,欲しいものはすぐに見つけられる。それは,さまざまな研究をするときにもいえること。もちろん,体の中で起こっている反応だって見ることができるはずだ。
オーダーメイド,承ります
生き物のからだの中では,さまざまなタンパク質が絶えず変化し,現れたり消えたりしながら複雑に作用し合っている。光のON/OFFや色の変化と連動することで,からだの中で起こっている反応を目に見えるようにする探知器,「分子プローブ」をつくり出すのが菊地和也さんの研究だ。たとえば,薬剤耐性のもとであるペニシリンを切る酵素「β-ラクタマーゼ」を検出できるプローブ「CCD」を開発した。「β-ラクタム環」を持った構造をしており,この部分が「β-ラクタマーゼ」によって切断されると蛍光を放つ。つまり,β-ラクタマーゼの有無や働きを光で教えてくれるのだ。ある目的のためだけにつくられた,オーダーメイド分子。その作製者である菊地さんのもとには,他分野の研究者からも作製の相談が舞い込むようになった。
分野をまたいで勝負する
菊地さんがこの研究を始めたのは,大学院の博士課程に入ってから。他の人が目をつけないような研究をしようと,化学と生物学の両方にまたがるケミカルバイオロジーという新しい分野を選んだ。このとき取り組んでいたのが,血管を拡張させる作用のある一酸化窒素に反応して光るプローブ作製だ。完成までに7年半もの年月がかかった。「目的のものをつくるのは難しくて,失敗してばかり。でも,その分愛着がわきますし,うまく光ったときの感動は忘れられません。研究室の学生にも,そんな体験をしてほしいですね」。
光で診断する未来の医療
特定の分子を見つけ出し,その働きを教えてくれる分子プローブ。その活用方法はアイデア次第だ。菊地さんは,この技術を病気の診断に役立てることができるのではないかと考えている。光る分子プローブを使い,病気の原因となっている物質の有無や遺伝子の働き方を調べることができるようになるかもしれない。体内から発せられる小さな光が,医療の未来を照らし出す。(文・石澤敏洋)
菊地 和也(きくち かずや)プロフィール:
1994年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。博士(薬学)。2年間にわたる海外での研究生活を経て,1997年より東京大学に勤務,2005年より現職。