つくえの上に、360°の世界を|斎藤 英雄

つくえの上に、360°の世界を|斎藤 英雄

慶應義塾大学 理工学部 情報工学科 教授

今日はサッカーの対戦試合。
目の前には,サッカーコートが描かれたシートが敷かれています。その上にスポーツ選手たちが現れ,熱い戦いがくり広げられる—— 360°臨場感あふれるスポーツ観戦を楽しめる未来を,慶應義塾大学の斎藤英雄さんは目指しています。

観戦はお好きな席で

私たちの左右2つの目に映る映像はほんの少しだけずれており,この違いでものの距離感や立体感を認識しています。目をカメラとし,位置をずらしながら対象物を360°取り囲むと,その立体的な映像が完成します。この技術をテレビ放送に利用すれば,サッカーゴールの横や選手の足元など自由な視点から試合を見ることができるようになるでしょう。しかし,実際にスタジアムに100台ものカメラを設置するとなると,膨大なコストと処理時間がかかります。「どれほど技術が素晴らしくても,社会に普及するものでなければいけません。私が目指すのは,お金を出してでも買いたいと思えるような技術の開発なのです」。

目の前に,スタジアムが出現!

現在,世界では,数百台ものカメラを使った研究が行われています。斎藤さんが挑戦するのは,たった4台のカメラを使った三次元映像の再現です。まず,4台のカメラをスタジアムに設置し,サッカーの試合を撮影。実際の物体と,カメラにより得られた画像との対応関係を行列に換算して,選手の位置や選手間の距離を割り出します。その位置情報を観戦側がつけるヘッドマウントディスプレイに送る一方で,机の上に敷いたシートに投射するべき選手の正確な位置を決定。このスタジアムと机の上という2つの三次元空間どうしを重ね合わせることが難しいとされています。斎藤さんはペナルティエリアなど,コート上の座標を細かく対応させることで,違和感のない三次元映像を実現。実際に,大学のサッカーリーグで行われた試合では,選手たちの動きを見事に机の上に再現できたのです。

バーチャルとリアルが融合する未来

将来的には,携帯電話の画面を通して,観客席やプレイヤーの視点からゲームを見ることも可能。リビングで,リアルタイムに三次元CGのスポーツ観戦をしたり,ゲームのキャラクターをテーブルに敷いたシート上に登場させて,世界中の人とオンラインで対戦できるようになるかもしれまん。そして,もっとわくわくする毎日がやってくるでしょう。(文・月居佳史)

斎藤 英雄(さいとう ひでお)プロフィール:

慶應義塾大学理工学部情報工学科 教授。1992年,慶應義塾大学大学院理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。カーネギーメロン大学客員研究員を経て,2006年より現職。カメラで撮影した画像情報を認識・理解する研究に取り組んでいる。

http://www.hvrl.ics.keio.ac.jp/?menu=0&lang=jp