スポーツ科学の世界へようこそ|橋本 健志

スポーツ科学の世界へようこそ|橋本 健志

立命館大学 スポーツ健康科学部 准教授

大学時代は,部活で始めたウィンドサーフィンにすっかりはまった。1時間以上かけて琵琶湖に通っては,真っ黒に日焼けしながら練習を重ねる毎日。そんななか,学部3年生のときに受けた講義がきっかけとなって,橋本健志さんの研究の日々が始まった。

「自分に向いているかも」という発見

高校生のときの得意分野のひとつが生物だった。特に興味があったのが,内臓などからだの中のしくみ。しかし,大学に入ってからは,ウィンドサーフィンなどに熱中し,しばらく生物学から離れていた。しかし,スポーツ科学の講義が,忘れかけていた「からだへの興味」をよみがえらせた。先生に急にいくつか質問され勘で答えたら,なんと全問正解。「自分は,この分野に合っているかもしれない!?」小さなきっかけが,生物とスポーツという2つの興味を持つ橋本さんの進む道を決めた。

乳酸は悪者じゃない!?

運動をすると,筋肉にあるグリコーゲンがピルビン酸へと分解され,やがて乳酸へと変化する。これまで,その乳酸が溜まると細胞の活性が低下し,疲れを感じるようになることから,乳酸は「疲労物質」と呼ばれ悪者扱いをされていた。このことに疑問を持った橋本さんは,アメリカの乳酸研究の第一人者のもとに行って研究を開始。運動をして乳酸が多くできると,乳酸を運ぶ分子「乳酸トランスポーター」の働きが活発になることを明らかにした。トランスポーターは,エネルギーを産生する細胞小器官ミトコンドリアの内膜に存在し,乳酸を内部に取り込んでいた。また,乳酸はミトコンドリアの数を増やすことを見出した。乳酸は,エネルギー源であるばかりか,運動効果のひとつであることを突き止めたのだ。

スポーツ科学の分野をオープンに

「じつは,乳酸が脂肪分解にも関与しているんじゃないかと考えています。運動と肥満の関係性が科学的に解明できるかもしれません」と,橋本さんは意気込む。「スポーツ科学は,サイエンスとして発展途上の分野です。僕は,生命科学という視点から,この分野を大いに盛り上げていきたい!」アスリートを目指していた人,からだのしくみに興味がある人­­——さまざまな興味からアプローチできるのが,スポーツ科学の大きな魅力。橋本さんは,一緒にこの分野を育てていける未来の仲間に,大きな期待を寄せている。(文・磯貝里子)

橋本 健志(はしもと たけし)プロフィール:

2004年,京都大学大学院にて博士号を取得。その後アメリカに渡り,カリフォルニア大学バークレー校にて研究生活を送る。2008年に帰国後,兵庫県立大学勤務を経て,2010年4月より現職。

http://www.ritsumei.ac.jp/shs/html/virtual/hashimoto.html