Science meets ART ~科学が芸術を求めるとき~ 五条堀 孝
国立遺伝学研究所 副所長 五条堀 孝さん
1979年九州大学大学院理学研究科博士課程修了。現在、国立遺伝学研究所生命情報・DDBJ研究センター教授、副所長。総合研究大学院大学生命科学研究科・教授(併任)、独立行政法人産業技術総合研究所生物情報解析研究センター・研究顧問(併任)。理学博士。
新しい表現方法を求めて、科学と芸術を融合させる活動が今、始まろうとしている。科学の研究の中で使われている図やグラフを別の表現方法で表すことができたら、それは全く新しい発見や発想をもたらすかもしれない。
人間を追求して生まれた学問
高校まで学んできた科目を思い出してほしい。生物・化学・物理・音楽・美術と、先人たちによってそれぞれの分野は系統立っており、学びやすく整頓されていたはずだ。学問が細分化される以前、14世紀から16世紀のヨーロッパでは、「人間とは何か」について深く考え、学び、そして表現する、ルネサンスと呼ばれる時代があった。この頃の知識人たちは哲学、芸術、自然科学、建築などの多様な切り口から「人間」に迫ろうとしており、サイエンスとアートを中心として学問は融合していた。それ以前の時代は、宗教上の理由から裸の絵画や彫刻が作られることはほとんどなかったが、人間を追及しようとした結果、腕の血管が浮き出て肉体の美しさが表現されたり、解剖学が発展したりした。たとえば、人間の体のパーツや体内を知るために行った解剖のスケッチは、最終的には非常に精密で芸術的な絵画となっている。
今、再び科学と芸術が融合する
この時代の後、芸術と科学が分かれ、さらに建築学、博物学、物理学と各専門分野に細分化され、それぞれの専門性を発展させてきた。特に産専門化が究極的に進んでいる現代、科学の最先端にいる研究者たちの中には、再びサイエンスとアートの融合を求める人たちがいる。先端科学を追求してきた科学者の視点や、科学の本質そのものを人々に伝えるために、科学者が創造しえない全く新しい表現手段が求められているからだ。15世紀の終わりに分かれて発展してきた科学と芸術を、再び融合しようという動きが今、始まろ業発展の基盤にもなったサイエンスやテクノロジーに含まれる分野は大きな進歩を遂げ、人々の生活や価値観を変化させてきたといえるだろう。専門化が究極的に進んでいる現代、科学の最先端にいる研究者たちの中には、再びサイエンスとアートの融合を求める人たちがいる。先端科学を追求してきた科学者の視点や、科学の本質そのものを人々に伝えるために、科学者が創造しえない全く新しい表現手段が求められているからだ。15世紀の終わりに分かれて発展してきた科学と芸術を、再び融合しようという動きが今、始まろ業発展の基盤にもなったサイエンスやテクノロジーに含まれる分野は大きな進歩を遂げ、人々の生活や価値観を変化させてきたといえるだろう。うとしている。
ヒトゲノムを表現しよう
国立遺伝学研究所の研究者、五條堀孝さんも科学に新しい表現手段を求める1人だ。「私だったら、人間を形づくる生命の設計図ヒトゲノムを一度に見てみたい」と目を輝かせる。およそ30億の文字がずらりと並んでいるヒトの生命情報のヒトゲノムは2003年に完全に解読されているが、これまで誰1人、一度にすべての情報を見たことはない。コンピューター画面上に、ATGCTATといった30億の文字列を一度に表示することはできないからだ。1分あたり200文字のペースで次々とページをめくって配列を見るとして、毎日24時間頑張っても全部見るのには30年もかかってしまう。「あの膨大なデータを芸術家はどのように表現するんだろう。鳥瞰図のように全部が見えたとき、生命謎を解明する手がかりが見つかるかもしれないよね」。表現することを追及してきた芸術家が、この膨大な情報全体を表現するとどうなるのだろうか。科学者が思いもよらない新しい方法で、生命の様子全体を見渡すことができるかもしれない。現代における科学と芸術の再融合は、新しい科学的な発見をももたらす可能性があり、今後、注目の動きだといえる。