人と木の、未来へと続くお付き合い|松野 浩一

人と木の、未来へと続くお付き合い|松野 浩一

東洋大学 理工学部 建築学科 教授

童話「三匹の子ブタ」に登場する木の家は,オオカミにあっけなく壊されてしまいます。しかし,地震などの自然災害の多い日本では,昔から木造建築が主流でした。秘密は,金具を一切使わず木材のしなやかさを活かした「伝統構法」にあったのです。

柔軟さが決め手の「木のお家」

埼玉県川越市にある蔵造りは,古いもので200年以上の歴史を持ちます。東洋大学の松野浩一さんはその耐震性を調べました。地震が起きると,建物の重さの約20〜30%の力が建物に働きます。そのため,重さを知ることは耐震構造を考えるうえでの基本。松野さんは柱の数や土壁の面積から全重量を算出し,建物にセンサーを取りつけ,振動に対する揺れ方を測定しました。「築100年を超えるのに,現在の建築物に匹敵する耐震性がありました。今主流の『在来構法』では接合部を金具で止めるため,地震が起きたときに木材部分のみが変形しやすい。すると,柱だけが折れたり抜けやすくなり,1階部分がまるごとつぶれ,2階部分がそのまま落ちてくることがあるんです」。木材のしなやかさを,もっと活かすことはできるのでしょうか。

温故知新で進化する耐震性

在来構法では,柱の強度よりも「壁」の強度を重視します。これまで,木製の板壁は耐震性が低いとされてきました。そこで,松野さんは,木でも頑丈な壁や床をつくれる「厚板重ね構法」を考案。板のサイドに凹凸をつくり,数枚を互いに噛み合わせる伝統構法の1種「本ざね」を応用し,木の板を組み合わせて一枚の大きな板をつくります。これを3層に重ねて壁と床に設置。測定の結果,壁強度が通常の板壁の約2倍ほどにもなったのです。

木材に心惹かれ

これまでコンクリート,テフロン膜などの素材による建築構造を研究してきましたが,木には違った魅力があると,松野さんは言います。木材は樹齢50~80年の樹木から多く産出されるので,石油や鉄に比べて計画的に生産することができます。また,実大のサイズを扱えるため,学生と家をまるごと1軒建てて大規模な実験を行える醍醐味もあります。地震が多い日本で生きる私たちは,木から学びながら,ともにこれからも生きていくのです。(文・林慧太)

松野 浩一(まつの こういち)プロフィール:

東洋大学 理工学部 建築学科 教授。1995年,法政大学大学院工学研究科建設工学専攻博士課程後期修了。博士(工学)。総合建設会社での勤務を経て,2003 年より現職。