カーブの影にひそむ、見えない危険|中村 康雄
同志社大学 スポーツ健康科学部スポーツ健康科学科 准教授
ミットに突き刺さらんばかりの直球や打者を翻弄する変化球。ピッチャーは,野球競技の花形だが,その肩や腕は常に故障するリスクと隣り合わせである。運動時の動きをじっくり観察することで,ケガの予防法が見えてくるかもしれない。
ケガの発生源はどこだ
私たちのからだには「関節」があり,腕を伸ばしたり,脚を曲げたりする運動の基点となる。関節は,骨と骨とのつなぎ目にあたる部分で,その周囲にある「靭帯」が骨どうしをつなぎ,関節の曲がる角度や範囲を制限している。たとえば,この可動範囲を超えたときに発生するケガのひとつが,捻挫だ。このとき,負担がかかりすぎた靭帯に細かい断裂が入り,「靭帯が伸びた」状態になる。これが痛みや腫れを引き起こすのだ。同志社大学の中村康雄さんは,ピッチャーの投球動作を,モーションキャプチャーシステムを用いて解析することで,こうした関節にかかる負担について研究している。
カーブと直球,負担はおなじ?
カメラで撮影した投球動作をコンピュータに取り込み,腕を振り下ろす際に移動する重心の加速度を調べる。これに,腕の重量をかけると,腕の動きを生む力を計算することができる。たとえば,ひじ関節をつなぐ上腕と前腕の力の向きと大きさを調べることで,関節にかかる負担がわかる。この手法を使い,一般的にひじ関節への負担が大きいといわれるカーブと直球を比較したところ,なんと両者の間で大きな違いがなかったのだ。 「現在は関節をおおまかな点として捉えているので,細かい腕のひねりによって,骨や靭帯のどこに負担がかかるのかはわかりません。さらなる情報収集が必要ですね」。今後は,肩甲骨の動きや関節構造などのパラメータを加えて,新しい計算モデルをつくるつもりだと中村さんは話す。
からだの動きと構造がわかっていれば,運動中に痛みを感じたとき,ケアしようという意識も高まるだろう。長くスポーツを楽しむためにも,自らのからだを知ろう。(文・奥山史)
中村 康雄(なかむら やすお)プロフィール:
同志社大学 スポーツ健康科学部 スポーツ健康科学科 准教授。1998年に新潟大学自然科学研究科博士後期過程を修了。その後米国ジョンズホプキンス大学へ2年間赴任し帰国。新潟大学で助手,特任助教を務めた後,2008年より現職。博士(工学)。