天狗につかまると、もじゃもじゃになる!?|大島 研郎

天狗につかまると、もじゃもじゃになる!?|大島 研郎

東京大学大学院  農学生命科学研究科  大島 研郎准教授

街にクリスマスの雰囲気を運ぶ,赤色と緑色の葉が鮮やかなポインセチア。草丈が低くたくさんの葉が生い茂るその様子は,ある病原体が引き起こした病気の姿だというのです。

実は身近なファイトプラズマ

その病原体とは「ファイトプラズマ」。感染しなければ,本来は数メートルにもなります。これ以外にも,ファイトプラズマはいろいろな植物に感染し,さまざまな病気を引き起こします。中でも特に農業に影響を及ぼすのが「てんぐ巣病」です。たとえば,桐の木は枝の一部からたくさんの小枝が発生し,まるでもじゃもじゃの天狗の巣のようになってしまいます。2001年にはヨーロッパでりんごの木で大発生し,総額12億ユーロの被害が出ました。ファイトプラズマは昆虫によって媒介されるため,これまでは感染した植物を処分して殺虫剤をまくことで,感染の拡大を抑えていました。いまだこれ以外の解決策はほとんどありません。

カギを握るTENGU遺伝子

しかし近年,病気の治療法につながるかもしれない研究成果が見つかりました。その糸口をつかんだのは,東京大学の大島研郎さん。2004年にファイトプラズマ全ゲノム解読に成功し,病気の原因となる候補遺伝子を約30種見つけたのです。大島さんはこれらひとつひとつの遺伝子をタバコやシロイヌナズナに導入し観察したところ,ある遺伝子を導入した植物で,草丈が伸びず枝分かれが多くなったのです。ファイトプラズマが病気を引き起こす原因はこの遺伝子にあったのです。その遺伝子は,てんぐ巣病の病名にちなんで「TENGU」と名づけられました。

興味が世界を広げていく

現在は,TENGU遺伝子が病気を引き起こすメカニズムを調べています。「元々の専門は微生物です」と大島さん。そこから微生物が植物に与える影響に興味を持ち,今の研究につながっています。興味の領域を絞らないこと。それが大島さんの研究の世界を広げる原動力になっています。(文・高橋良子)

大島 研郎(おおしま けんろう)プロフィール:

1993年,東京大学農学部農芸化学科卒業。1998年,東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。博士(農学)。同研究科アグリバイオインフォマティクス人材養成ユニット特任助教を経て,2009年より現職。