地層から読み取る過去の記録|宍倉 正展
独立行政法人産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター 海溝型地震履歴研究チーム チーム長
砂や泥や土,さまざまな固体成分が積み重なってできる地層の縞模様を見たことがあるでしょうか。人類がまだ存在しない,何億年も前の大昔から今日まで鼓動をくり返してきた地球の姿が,ここに刻み込まれています。
古文書よりもっと大昔へ
歴史を知る手がかりのひとつに「古文書」があります。日本は地震の多い国であることが,その記録の多さからもわかります。最も古いのは飛鳥時代,西暦600年代のものです。しかし,古文書は人が書いたものですから,その内容から過去のすべてがわかるわけではありません。地形学・地質学は,それよりもっと昔からの地球の歴史を知る学問。そして,過去に生じた地震を扱うのが,古地震学なのです。これまでの研究で,同じくらいの規模の地震が同じ地域に「再来」することがわかっています。つまり,くり返しの間隔と,最近いつそれが起きたのかがわかれば,地震の予測をすることができるのです。産業技術総合研究所の宍倉正展さんは,地質を調べ,過去の地震の痕跡を探しています。
リズミカルに,地球は動く
最近調べたのは,2011年3月に起きた大規模地震で被害に遭った宮城県石巻市内の土。地面に丸い筒状の器具を1 mの深さまで挿して,筒の中の土をそのまま抜き出して調べます。海岸線から直交方向に内陸に向かう直線上の50か所以上で地層を調べることで,同じ組成である範囲を推定していきます。何層かに積み上がった土の中で宍倉さんが最初に注目したのは,湿地であったことを示す泥炭の黒っぽい層でした。ところが,その中には,海の生き物の化石などを含む砂の層が挟まれていたのです。もしかしたら,津波によって運ばれてきたのかもしれません。そこで,年代測定を行い,古文書と照らし合わせたところ,平安時代の西暦869年に起きた貞観地震の際のものということがわかりました。1100年以上前にも,2011年3月の地震と同様に,海岸線から3~4 kmも離れたところまで津波が届くような大地震があったのです。「真実は現場にある。今まで自分たちがやってきたことは間違っていなかったと確信しました」。そう力強く話す宍倉さんが求めるものは,リズミカルに動き続ける地球を知るための手がかりなのです。(文・磯貝里子)
協力:宍倉 正展(ししくら まさのぶ)プロフィール:
独立行政法人産業技術総合研究所活断層・地震研究センター海溝型地震履歴研究チーム チーム長。2000年に千葉大学大学院自然科学研究科を修了後,通商産業省(現・経済産業省)工業技術院地質調査所に入所。現在まで一貫して過去の地震に関する調査研究を行う。2010年より現職。博士(理学)。
http://staff.aist.go.jp/m.shishikura/index.htm