パワーアップの近道は軽めのバーベル?|田路 秀樹
兵庫県立大学 環境人間学部 教授
リズミカルにドリブルをしながらディフェンダーの裏をかいくぐり,低い姿勢から一気に跳躍してボールを投げる——バスケットボールをはじめ,さまざまなスポーツで大切になるのが,筋力とスピードのバランスだ。これらを,効率的にトレーニングする方法はあるのだろうか。
筋トレだけでは,高く跳べない
素早く投げ,跳ぶために必要なのが,「筋力」と「スピード」。これらをかけ合わせたものをパワー(仕事率)と呼ぶ。トレーニング時の負荷をさまざまに変えたときに発揮されるパワーを調べ,効率的な方法を研究するのが兵庫県立大学の田路秀樹さんだ。「もともとバスケをしていたので,垂直跳びを効率的に鍛えようと,さまざまなトレーニングの効果を調べました。結果,スクワット運動を行うより,垂直跳びの反復練習を行った方が,ジャンプ力向上に効果が高いことがわかったのです」。それでは,筋力を鍛えるウエイトトレーニングは必要ないのだろうか?そんなはずはないだろうと考えた田路さんは,スクワット運動と垂直跳びの反復練習を組み合わせて行った。すると,垂直跳びの反復だけをするよりもジャンプ力が向上したのだ。
合わせ技が効き目あり
その後,具体的にどのような負荷の組み合わせが効果的なのかを探るため,より単純にひじを曲げて重りを持ち上げることによってパワーを向上させる方法を調べた田路さん。過去の研究から,単一の負荷の場合では,自分が全力で発揮できる筋力の30%の負荷が最大パワーを高めるのに最も効果的であるとわかっていた。そこで,30%を基準に最大の筋力(100%), 60%,空振り(0%)をそれぞれ組み合わせて1日12回ずつ週に3日,8週間トレーニングを行ったのだ。その結果,30%負荷にいずれかの負荷を組み合わせ6回ずつ反復するより,最も効果が見られたのは30%,60%,100%の3つの負荷を複合させてそれぞれ4回ずつ行うことだった。「反復回数を減らしても,さまざまな負荷をかけながら,全力で筋肉を収縮させることが全体的なパワーアップにつながるのです」。同じ筋トレをくり返すのでなく,負荷を変えながら複合的に鍛えること。これがパワーアップへの近道のようだ。(文・西山 哲史)
協力:田路 秀樹(とうじ ひでき)プロフィール:
兵庫県立大学 環境人間学部 教授。1977年,日本体育大学卒業。2004年大阪体育大学大学院スポーツ科学研究科博士後期課程修了。姫路工業大学環境人間学部助教授を経て,2005年より現職。博士(スポーツ科学)。
http://www.shse.u-hyogo.ac.jp/toji/