君は彼らに ついていけるか?

君は彼らに ついていけるか?

―今、教育業界で最も熱い 2社の社長が語る、日本の教育の未来

米山維斗君、12歳。
ケミストリー・クエスト株式会社の取締役社長だ。
自身が好きな化学の楽しさを友だちにも知ってもらいたいと「ケミストリークエスト」というカードゲームを開発、販売する会社を設立した。
素粒子物理学から現代の教育論まで熱く語る、驚異的な小学生だ。
一方、福島保さんは、教育企業最大手である株式会社ベネッセコーポレーションの代表取締役社長。まさに、日本の教育に大きな責任を果たしてきた人物だ。立場は違えど、教育への熱い想いを胸に活動を続ける両者が考える、日本の教育業界の問題点、そして今後研究者が果たすべき役割とは何なのか。日本で最も若い社長と変革期を迎える大手教育企業の代表が日本の教育の未来を本気で語る!

小学生起業家は研究者!?

米山 「ケミストリークエスト」は、ペアになって自分の原子カードと、相手の原子カードを組み合わせて1つの分子をつくっていくゲームです。カードがなくなるまでに、より多くの枚数で分子をつくれた方が勝ちです。

福島 日常で小学生が周期表を使わないと思うけど、どこでこのゲームの発想が生まれたの?

米山 もともと科学が好きで、博物館に行くのが大好きでした。あるとき鉱物に興味を持って調べると、鉱物がいろんな元素からできていることがわかりました。元素の組み合わせ次第でいろんなものをつくれる化学の面白さを周りの友だちに共有したいと考えた結果生まれたのが「ケミストリークエスト」です。

福島 興味を持ったらとことん突き詰めるタイプだね。そしてそれを自分で形にできるところがすばらしい。研究者みたいだね。

米山 僕は研究者になりたいです。自分で考えて自分でつくるというのが一番楽しい。そして、自分でつくったものを喜んでくれる人を見るともっと楽しくなります。

福島 研究者はゴールに向かって試行錯誤して結果を出す、という思考プロセスを持っているよね。そういう人は、実は我々と親和性があると思う。今までベネッセを志望する人は教育や子どもへの関心が非常に強い人だった。でも、今はちょっと違ったタイプの人も来てほしいと思っているんだ。なぜなら、ベネッセが提供する教材は変わっていかなくては、と思っているから。世の中では様々なツールが開発されている一方で、学校や我々が提供する教材は変わっていない。そこに学びのミスマッチが起きているのではないかと思って、ベネッセは新しい風を吹き込もうとしているんだ。今は一方向の知識伝達ではなく、社会での知識の活かし方を身につけた人材を育てていく必要がある。そのために子どもたちに提供する学習素材の在り方がどうあるべきかを考えると従来の考えや想いだけでは実現しない。小中高の学びの中で外部と連携しての問題解決や、ネットワークの中で知恵を高め合うことを教える術すべを我々が磨くためにも、その試行錯誤を楽しみながらチャレンジできる人を外から入れなくてはいけない。従来型の人との化学変化を起こしてほしいと思っているんだ。その大実験ができるのは、研究者だと思うんだよ。

世界中の人の日常に化学を!

福島 周期表ができて以来誰も思いつかなかったことを小学生が考えるなんて本当に信じられないね。

米山 周期表は覚えるものだ、と思っているからじゃないのかな。僕はみんながゲームで遊びながら分子について自然に知れて、生活の中でその分子に関する表示を見つけたときにあれか!と思ってもらえたらいいなと思ってつくりました。

福島 理科離れといわれるけど、日本の教育で一番の課題は学びが自分たちの世の中に役立つ実感をいかにつくるか。その点でもケミストリークエストは日常の中の化学を伝えるのに良い教材だね!

米山 僕ははじめからこのゲームをPCでつくり印刷していました。これまでずっと紙でつくってきましたがPC版もつくってみたいです。僕は英語も好きなので、PCでゲームをつくったと同時に英語版もつくりました。

福島 昨年から、ベネッセはMITメディアラボと一緒に共同研究をしている。また、今月にはシリコンバレーにも事務所を出して、カリキュラムにとどまらない学びの中でどんな教材を提供できるか、最先端の研究といろんな企業の実践例を組み合わせた理想的な教材づくりを模索中なんだ。海外では2歳児からPC教室があるような場所もある。これから君のように小学生でもどんどんPCを使いこなして、新しい知識を入れたり、何か自分で表現したりする人は世界中ででてくるだろうね。

米山 幼稚園のときに自然科学を日常の中に取り入れる授業がありました。自分の住んでいる家から始まって、学校と地域、地域と国、そして地球から惑星、とつながりを追っていくんです。僕はそれで理科に興味を持ちました。だから理科の楽しさをみんなに伝えたい。

福島 科学は世界とつながることができる。インドネシアに行ったときに周期表が学校にはってあって、世界中どこにいっても科学は共通言語なんだなあと思ったよ。

米山 だから「ケミストリークエスト」は海外展開もしやすいはずなんですよ。

福島 そこまで考えているのはすごい!どこでも同じかたちで受け入れられるというのは大事だね。

研究者は教育業界で活躍できる
福島 これまで開発途中の教材で小学生に遊んでもらってモニタリングすることはたくさんやってきたけれど、そもそもどんな教材があったら良いかをユーザーである子どもたちと一緒に考えるのも面白いかもしれないって米山君に会って思ったね。

米山 僕はゲームにしたいことがたくさんあるんです。中学受験が終わったら中級編や上級編もつくりたいです。

福島 ベネッセが教材で幼児から大学生まで一貫して大事にしていることは、モチベーションを引き出す、ということ。でもこれからはこの引き出し方が大きく変わる。世の中全体がネットワーク化して、幼児期からPCに触れる今の子どもたちには、紙の教材を提供するるだけでなく、違う学ばせ方、教材の提案の仕方が必要だと思う。その1つに米山君が開発したゲームのようなかたちはとても良いね。

米山 似たようなゲームを調べると化学をモンスターにして戦うゲームがアメリカにありました。僕は敵を倒すゲームではなく、戦わないゲームをつくりたくて、必ず自分と相手のカードを組み合わせて仲間をつくるというところにこだわりました。

福島 今度、ベネッセで教材開発を一緒にやれたらいいね!教育は崇高なものというイメージがあるけど、ベネッセは30~40年前に教育界で初めて教材の中にイラストやキャラクターを導入した。

当時はそのこと自体が革新的な出来事だったと思うんだ。同じような転換期である今の教育業界でも、ベネッセは先陣切って改革をしていかなくてはならない。そんなときに従来型の人と全く発想の違う、たとえばゲーム会社に就職するような人がうちに来てくれたらいいな。コンテンツの目のつけ方が違う人と一緒にやりたい。まさに米山君のような人だね。今回、リバネス研究費ベネッセ賞を出すけど、情報系の技術者のアイデアを募集するのもまさに新しい発想を入れるため。教育業界に挑戦したい人の応募を待っています。

(取材・構成 環野 真理子)