ACRO"BAT" IN THE DARK|力丸 裕

ACRO"BAT" IN THE DARK|力丸 裕

同志社大学 生命医科学部 教授

洞窟の奥からバサバサと勢いよく飛び出した後,突然の急降下。あっ危ない!と思った次の瞬間には舞い上がり夕闇に消える……

悪魔の象徴やアニメ『バットマン』の題材として知られているコウモリは,暗闇にもかかわらずアクロバティックで見事な飛行を見せてくれます。

超音波を使いこなす

彼らが使うのは,周波数が約20 kHz 以上ある,人間の耳には聞こえない超音波です。コウモリは口や鼻から超音波の一種である「パルス」を1 秒間に数回から数百回発射して,物体に当たって反響する「エコー」を耳で収集し,エサとなる昆虫や障害物の正確な位置を測定しています。音は空気中で毎秒340 m 進むため,パルスとエコーの時間差が2 ミリ秒であれば,34 cm 先に物体があることがわかります。これに加え,左右の耳で感知したエコーの強さの違いや詳細な解析を行うことで,物体の大きさや表面の構造を知るのです。

リアルタイムの秘密

では,コウモリは常に膨大な情報を分析しながらリアルタイムで次の行動を決定しているのでしょうか。同志社大学の力りきまる丸裕ひろしさんは,縦8 m,横3 m,高さ2 m の観測室をつくり,そこに0.6 g
しかない小型で軽い高感度な無線マイクを頭につけたキクガシラコウモリを飛ばし,飛行時の超音波を計測しました。
その結果,目的物に対するエコーの周波数と強さが一定になるように,あらかじめ発するパルスを調節していたことがわかりました。受け取る情報を決めてしまえば,解析の手間が省け,素早い処理が可能となるのです。

身近な不思議に,耳を澄ませば

「多くのエコーから必要な情報だけを取り出し,どのように処理の優先順位を決めているのか。安物のパソコンで高性能なスーパーコンピュータ以上のことをやってのけているのです。しかし,その秘密はほとんどわかっていません」と,力丸さんは目を輝かせます。
私たちのすぐそばある,見えない世界,聞こえない音。暗闇で超音波を操るコウモリに,あなたも魅了されてみませんか。(文・川本 成美)

力丸 裕(りきまる ひろし)プロフィール:

同志社大学 生命医科学部 教授
京都大学工学部卒,米国ノースウエスタン大学「コミュニケーション科学と障害研究科」にてPh.D 取得。米国ワシントン大学(セントルイス)にてコウモリ生物ソナーの神経機構解明の研究に従事。1995 年同志社大学工学部教授。2008 年より生命医科学部教授,現在に至る。