量子論のミクロな世界が、目の前に立ち現れる
東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 相関基礎科学系
教授 前田 京剛(まえだ あつたか)さん
特定の金属物質の温度を下げていくと、抵抗が急激にゼロになる「超伝導」を起こす。「より高温で超伝導を起こしたい」という目標は、この分野の研究者共通のものだ。前田京剛さんももちろん、そのひとり。それを適える新しい物質を探している。
超伝導を起こしている物質には、抵抗がない分、エネルギーをムダなく流すことができる。そのメリットを活かしてリニアモーターカーなど、超伝導の利用は進みつつある。しかし、開発のネックになっているのは、液体窒素などの寒剤がないと、超伝導を起こせないことだ。現在、最も高い温度で起きる超伝導体として銅酸化物が発見されている。10数年ぶりに記録を塗りかえたという。しかし、これが超伝導を起こす臨界温度に達するのは150K。「高い」温度とはいえ、およそ-123℃という「低い」温度なのだ。さまざまなところで超伝導を利用するには、常温で使えることが重要になってくる。
超伝導は、物質の中の原子が起こす現象。その原子の動きが違えば、超伝導が起きる温度も違ってくる。そういった観点から、前田さんは、物質が超伝導を起こすまでの過程を物理的に調べることによって、どんな物質が高温で超伝導を起こしやすいかを推測し、新しい超伝導体を見つけるのに役立てようとしている。
前田さんが超伝導の研究に取り組んでいるのには、もうひとつ理由がある。それは、「超伝導は、世の中の役に立つだけでなく、現象としても非常におもしろい」からだ。「目に見えない『量子論』の世界を相手にしている研究ですが、超伝導の過程を調べていると、そのミクロの世界がマクロなサイズで目の前に立ち現れる。それが、この研究の魅力なのです」。