自分自身のことは一番わからない 石井 直方

自分自身のことは一番わからない 石井 直方
東京大学石井 直方教授

東京大学石井 直方教授

筋トレ好きから筋肉の研究者へ

ワトソン・クリックがDNAの2重らせん構造を解明し、ノーベル賞を受賞してから10年ほど後、石井直方さんの高校時代には世界中で生命科学の熱が高まっていました。石井さんは「人工の生命を作りたい!」との想いを胸に、生命科学を勉強するために大学へ進みました。
趣味の筋トレに勤しんでいるとき、ふと疑問が浮かびました。「筋肉はなんでこんなに柔らかいのに重いダンベルを持ち上げられるのだろう?」生まれたときからずっと付き合ってきた自分自身の身体のことにもかかわらず、その仕組みはまったくわからないことに気が付きました。
そんなことがきっかけで、石井さんは筋肉に興味を持ち、研究を始めました。

効果的な筋トレとは?

ホームランを打つためには強い腕力が求められ、速く走るには脚力が必要なように、スポーツでは好成績を出すために筋トレは重要なポイントと考えられています。しかし石井さんは別の角度から筋トレの重要性を考えました。それは高齢者の健康維持のための筋トレです。
日本では高齢化が進み、今後さらに高齢者の健康問題は課題になると考えられます。高齢者が寝たきりになったりせず、健康的な生活をおくるためにも筋力アップが必要だと考えたのです。しかし、筋トレをすれば筋肉が強くなることは小学生でも知っていますが、重いダンベルを使ってトレーニングをすることは高齢者には困難です。高齢者にはもっと優しい筋トレ法が必要だと考えた石井さんは、効果的な筋トレ法を探し始めました。

石井先生がボディビルやっていた頃の写真

石井先生がボディビルやっていた頃の写真

筋肉を鍛えるためには重い負荷をかければいいと経験的に考えられてきました。しかし必ずしも重い負荷をかけなくても、効率的に筋肉を鍛えることができるということがわかりました。軽い負荷でも、筋力を発揮している時間を長くすることで、重い負荷をかけたときと同等の筋トレ効果を得られるのです。これなら高齢者でも無理なくトレーニングすることができそうです。効率の良い負荷の大きさとトレーニング時間の組み合わせを探し出せれば、年齢や性別、体重等さまざまな状況に合わせて適切なトレーニングを選ぶことができるようになりそうです。

あなたの身体は謎だらけ

石井さんは「自分の身体に興味を持ってほしい」と言います。自分自身の身体は身近すぎて気づきにくいですが、不思議がいっぱいです。肘が曲がることや匂いを感じること、転ばずに歩けることや風邪で頭が痛くなること、いつものことを「あたりまえ」だと思わずじっくり考え「なぜ?」の気持ちを持って見つめなおしてみましょう。

石井 直方 ISHII Naokata教授

1955年東京都生まれ。東京大学理学部生物学科卒業、東京大学大学院理学系研究科修了、理学博士。専門は筋生理学、身体運動科学。
これまで、力学的環境への筋の適応機構の解明と、その応用としての新たなトレーニング法の開発に携わってきました。筋に限らず、生命の基本的メカニズムの解明や、新規技術の開発につながる研究ができればと思っています

石井先生よりメッセージ

石井先生の本棚見せてもらいました

石井直方先生の本棚

トレーニングをする前に読む本──最新スポーツ生理学と効率的カラダづくり (講談社プラスアルファ文庫)