おいしいパンとコムギのひみつ

おいしいパンとコムギのひみつ

みなさん,パンは好きですか?私たちがお いしいパンを食べられるのは,粘着性と弾性の 両方を兼ね備えた性質を持つグルテンが,イー ストの発酵によりできた炭酸ガスを閉じ込めて ふっくらと広がってくれるおかげです。このグ ルテンはお米にもトウモロコシにも含まれてい ない,小麦だけが持っている特徴なのです。 

グルテンでふっくらもちもち

グルテンは,小麦の種子の胚乳に含まれるグルテ ニンとグリアジンというタンパク質を混合すること でできます。グルテニンとグリアジンは本来,発芽 時に分解して成長に利用されます。これら 2 つのタ ンパク質のバランスで,グルテンの粘りや弾力が変 わるのです。小麦の品種によってタンパク質含量が 異なり,少ない順に薄力,中力,強力小麦と呼ばれ ます。私たちは,このグルテンを利用してパンやお 菓子や麺といったさまざまな食べ物をつくります。 パンに使うのは,最もタンパク質の量が多い強力小 麦で,炭酸ガスをしっかりと包み込める,たくまし いグルテンを得ることができるのです。

日本ではパン用コムギは育たない!?

じつは,日本ではこの強力小麦がほとんどつく られておらず,パンの自給率はなんと 1%しかあ りません。強力小麦の多くは春にまいて,お盆の 頃に収穫する品種です。日本は夏にかけて蒸し暑 い時期が続くため,比較的寒冷で乾燥した気候に 適している小麦には,そもそも厳しい環境です。 この時期に植物の病気にかかったり,実が穂につ いたまま発芽してしまう穂発芽という現象が起き たりしてしまいます。穂発芽が起きると,デンプ ンやタンパク質が分解されてしまい,小麦の品質 が下がってしまいます。春まきの強力小麦を安定 して日本で栽培するのは,とても難しいのです。

国産パンをつくる「ゆめ」

北海道農業研究センターの西尾善太さんらは, 日本の気候に合う強力小麦をつくるため,品種改 良の研究に取り組んでいました。今からさかのぼ ること 16 年,蒸し暑くなる前に収穫できる秋ま きのパン用小麦をつくるため,秋まきで早く収 穫できる「札系 159 号」と超強力小麦の系統で ある「KS831957」の交雑種,そしてタンパク質 含量が高く丈夫な「月系 9509(キタノカオリ)」 のかけ合わせが行われました。そこでできた品種 を第 1,第 2,第 3,第 4 世代と自家受粉によっ て世代を重ねることで遺伝的形質を安定させてい きました。2005 年に「北海 261 号」と系統名を つけられた小麦は,秋まきで超強力という性質を 獲得していました。さらに,これまでに問題になっ ていた病気に対して耐性があり,しかも穂発芽し にくいという,これ以上ない条件を備えていたの です。「北海 261 号」は 2009 年に北海道優良品 種に認定され,「ゆめちから」という名前がつけ られました。この小麦は西尾さんの「国産のパン を広げたい」という「ゆめ」に「ちから」を与え 始めています。

敷島製パン株式会社 自給率200%プロジェクト

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