出でよ!水をはじくデコボコバリア
最後に夏の必需品,日焼け止め。海水浴でよく活躍しているが,じつは水に濡れると落ちやすいって知ってたかい?単独行動が多いお化けだけど,たくさんあつまると怖〜いくらい大きな力を発揮するんだよ。
海では使えない!?
日焼け止めを塗ってできる膜構造は,水に濡れると壊れやすかった。もっと水に強い構造はないか。その答えは自然界にあった。ハスの葉の表面上には細かい毛たちが密集しており,小さな空気の泡を抱え込むことで水をはじいている。これをヒントに,企業と慶應義塾大学の朝倉浩一さんは共同で,水に強い日焼け止めALLIE EX-R とEX-a を開発した。薄く伸ばすと数百マイクロメートル間隔のストライプ構造ができ,さらに,乾くまでに数マイクロメートル間隔の凸凹構造が形成され,そこに空気が入ることで水をはじく。これらすべて自発的に起こるというから驚きだ。
みそ汁の模様と同じ
いったい何が起こっているのだろうか。日焼け止めには,紫外線をカットする紫外線吸収油剤や酸化チタン微粒子,揮発性のシリコーンと樹脂が含まれる。塗った瞬間からシリコーンは蒸発しはじめ,残された液体表面に球状になろうとする表面張力が働くようになる。すると,平らな表面のあちこちに液体が集まり小さい凸構造が形成さ
れる。一方で,粘性の高い樹脂によって平らな表面を保とうとする力も働く。相反するふたつの力が,規則正しい凸凹構造をつくるのだ。このような規則的なパターンは「散逸構造」と呼ばれ,自然界で多く見られる現象だ。たとえば,熱々の味噌汁に浮かぶ模様やシマウマのしま模様がそう。この理論の提唱者のイリヤ・プリゴジンは、1977 年にノーベル賞を受賞している。こうした自発的な化学システムに興味を持ち,朝倉さんは研究を続けてきた。共同開発の結果,樹脂量を減らし粒子サイズを小さくして流動性を高めることで,散逸構造がきちんとつくられる環境を整えたのである。 さらに,凸凹な表面が光を散乱することで,肌がきれいに見えるという嬉しい効果も生まれた。水に強い日焼け止めには,ノーベル賞もののお化けが潜んでいたのだ。(文・栢沼 愛)
協力:慶應義塾大学 理工学部 応用化学科 教授 朝倉 浩一
【プロフィール】1990 年に慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程修了。工学博士。2009 年から現職。「自己組織化」を軸に,基礎研究と産業に直結する研究の両方を行っている。
http://www.applc.keio.ac.jp/~asakura/index.html
必要なものは,液体のり,板と棒だけ。板にのりを少しのせ,板に平行に棒で引き伸ばすと,のりの表面にストライプ状の凹凸構造が形成されることがある。のりの粘性,板の素材(木,ガラス等),棒を引く速度などを変えて,模様の変化を観察しよう。
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