生き物図鑑from ラボ うちの子紹介します「ヤギ」

生き物図鑑from ラボ うちの子紹介します「ヤギ」

研究者が,研究対象として扱っている生き物を紹介します。毎日向き合っている からこそ知っている,その生き物のおもしろさや魅力をつづっていきます。

ヤギといえば、野原でのんびりと草を食べている姿を多くの人がイメージするのではないでしょうか。
しかし、沖縄県では農作業などで疲れたときやお祝いの席で必ず食べる食材としてのイメージが一般的です。
ヤギには穀物などを含む配合飼料が必要でなく、草のみを食べて成長することから、かたい繊維を消化することができない人間と、食糧を取り合うことがありません。そのため、ブタやニワトリに代わる新しい家畜として注目されています。

ヤギをはじめとする草食動物は、4つの胃を持ち、食べ物を胃と口の間で往復させる「反芻」を行います。
そのカギを握るのが、胃全体の容積のほぼ7割を占める第一胃です。
じつは、ヤギ自身は植物を消化する酵素を持っていません。
第一胃の中に入っていた内容物を取り出して調べたところ、1g当たり109~1011個以上もの微生物が生息していることがわかりました。
それらが分泌する消化酵素が植物の主成分であるセルロースやでんぷんを分解し、その分解産物がヤギのエネルギー源になっているのです。

また、微生物のしがい死骸はタンパク源としてヤギの成長に利用されます。
その代わりに、ヤギはヒトの10倍もの大量のアルカリ性唾液を分泌して第一胃内で微生物が生み出す酸を中和し、生成されるガスをゲップとして体外へ排出することで、微生物が生きられる環境となるよう調整します。ヤギと第一胃微生物との間には、共生関係がつくられているのです。
ウシは人間が食べられるようになるまでに約28か月かかるのに対し、ヤギは12か月と短く、体重も70kgと小型のため飼育しやすいという特徴もあります。

ヤギ乳には牛乳に含まれるカゼインとは異なるタイプのカゼインが含まれているため、牛乳アレルギーをもっていても飲むことができますし、ヤギ肉にはタウリンなどの機能性成分が多く含まれることがわかっています。やがて来る食糧難の時代、ヤギが私たち人間を救ってくれるかもしれませんね。

協力:琉球大学農学部教授砂川勝徳さん

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