遺伝子から明らかになる、病気の新しい治療法 石浦 章一

遺伝子から明らかになる、病気の新しい治療法 石浦 章一

東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系
教授 石浦 章一(いしうら しょういち)さん

生命の設計図であるDNA。その異常によって引き起こされる遺伝病を治療することは、これまで難しかった。しかし最近、DNAの研究が進んだことで、治療法が明らかになりつつある。その一例が、筋強直性ジストロフィー。筋肉がいちど収縮すると簡単に元に戻らなくなる病気で、例えば、コップを握るとそのまま指が固まってしまい、もう一方の手で握っている指を開かなければコップを離すことができない。石浦さんのグループは、この病気の原因となるDNAの異常と発症の仕組みを明らかにし、10年近く研究を続け、ついに薬となる可能性のある物質を最近発見した。

長いDNA上で遺伝情報を含むのは、実はごく一部。遺伝情報を含む部分と含まない部分は、DNA上で交互に連なっている。これまで、遺伝情報のある部分の異常に注目した研究が多く行われてきた。しかし筋強直性ジストロフィーは、遺伝情報を含まない部分の異常により引き起されていた。DNAに記録された情報に基づき我々の体を構成するタンパク質の多様性を生み出す際に働くタンパク質が、異常を起こした部分にくっついてしまい本来の役割であるスプライシング調節を果たせなくなっていることが、この病気の原因であった。発症の仕組みが明らかになったことで、これまで治療の難しかったこの病気も、いずれ治療できるようになると期待される。将来、この病気だけでなく様々な遺伝病が、DNA研究の進展によって、治すことが可能になるかもしれない。

石浦章一教授からのメッセージ