人の脳が何をやっているか、それが知りたかった:植田一博

人の脳が何をやっているか、それが知りたかった:植田一博

植田先生は、認知科学や脳科学といった分野の研究者。
情報科学の分野からスタートし、人が読み書きする言語(自然言語)のコンピュータによる処理から人工知能に興味を持つ。当時の東京大学には、人工知能や認知科学の専門家がほとんどおらず、個人で進めてきたテーマが現在のメインの仕事になっている。

研究を進めれば進めるほど、人の脳が何をやっているかが知りたくなるという。
コンピュータと違って、一見合理性からはずれたような行動をするのが人間だが、コンピュータでは実現が難しい能力がそこにはあるという事、それ自体が植田先生の興味の対象なのだ。

「どうやったらアイデアを閃くのか、知りたいでしょう?」

心理学者も脳科学者も、創造性やイノベーションといったものが重要だということは認識している。しかしそれはこれまで、科学的な議論の俎上に乗せるのが難しい分野だったのです。
何故かというと、脳活動にはノイズが多いため、同じ課題で何度も計測してその平均をとるのが一般的ですが、閃きを必要とする問題については同じ人に対してたった一度しか計測することができず(答えを知れば閃く必要がないからです)、そのような問題を解いているときの脳活動をモニタリングするのが難しかったからです。
イノベーティブな活動をしている脳の状態を測定するには、その人が自発的に思考できる状態である必要がありました。
これらの難しさを解決するのが、最近の計測技術です。
生きたまま、人の脳がどのように変化しているのかを計測することが出来る
MRI等の計測技術や脳の外から脳の活動に影響を与える電気(あるいは磁気)刺激技術の進化と工夫によって、植田先生の計画する実験は可能になってきました。

アイデアの源泉はどこにある?

東京大学植田一博先生

植田先生が言うに、人間というのは無意識のうちに、行動様式を制限する生き物だそうです。例としてあげられたのがこのパズル。シンプルな4ピースのパズルなのですが、バラバラにして出されるとTの字にするのが意外と難しかったりします。
それはなぜかというと、人はこういう角張った複雑な物に直面すると、それらを接続してできるだけ簡単な形を作ろうとする上に、そもそも物を置くときには垂直方向や水平方向といった方向に配置したくなるのだそうです(机の上を片付けるときに、ノートや本を斜めに置く人は見かけませんね)。

「物を置くという行為に、無意識的に制約をおいている」。

しかしながら、このパズルの解決にとってポイントとなる五角形のピースのくぼみに他のピースを接続して簡単な形にしたり、このピースを垂直方向や水平方向に置いてしまうと、いつまでも正解に至りません。植田先生はその制約が、僕らのイノベーションを生むトリガーを抑制しているのではないかと考えています。実際、製品開発者はユーザよりも製品知識を多くもっているわけですが、IT(情報通信)製品のイノベーションでは、このような多くの知識をもっていることがかえってアイデアを抑制してしまっていることを明らかにしました。

無意識の制約を超え、イノベーションを生む

ここはまだ未発表部分だということで詳しいことは書けないのですが、イノベーションの源泉はどうやら脳のあるネットワークが握っているのではないかということを現在研究している最中です。
だいたいわかってきたようなのですが…先生の今後の論文を心待ちにしましょう!

【後編「人は選択肢が多すぎると、選択することをやめてしまう」 】 へ続く

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