科学をもとに災害に強い街をつくる 加藤孝明
みなさんは「科学」という言葉を聞いてどのような研究を思い浮かべるでしょうか?
顕微鏡で観察したり、試験管で化学反応を起こしたりという理科室での作業が思い浮かぶのではないでしょうか。
しかし私の研究では顕微鏡や試験管は使いません。私はみなさんが住む「街」を科学し、災害に強い街を作りたいと思っています。
防災には科学的な予測が不可欠
昨年3月に多くの方が被災した東日本大震災は記憶に新しいと思います。
自然災害はいつどこで起こるのか予測が難しく、対策が難しいのが現状です。
しかし、防災という観点で考えたとき、科学的に予測できることもあります。
それは、災害が起きたとき「街がどのようになりそうか」ということです。
例えば、ある河川が氾濫したとき、街のどの地域に水が浸入するかを予測することは、地域の土地の高低を調べることである程度可能です。
その予測をもとに避難場所を決めたり新たに作ったりすることができます。
地震火災に強い街づくり
東京で大地震が起こったとき、火災による被害を最小限に食い止めるための研究が行われています。
当たってほしくない予測ですが、首都直下の大型地震が起こったとき、東京では同時に800件~1000件の火災が起こるとの予測がでています。
東京消防庁が配置している消防車の数が約700台であるため、すべてを消火することは不可能です。
そうなると「火災を広げないこと」が重要になってきます。
火災の広がりかたは科学的に予測することが可能です。
風向き、建物の構造、建物の密集度や位置関係などをモデル化すると、「燃え広がりやすさ」をシミュレーションすることができます。
私は街全体としての「燃え広がりやすさ」を下げることを目指しています。
例えば、ある地域で出火してしまったとしても、道路沿いに燃えにくいマンションやオフィスビルが並んでいれば、火の進行を止めることができ、隣の区画に火が広がるのを防ぐことができます。そのような防災性の高い街の構造、街のあり方を社会とともに考えることが私の使命だと考えています。
専門家と地域が一体となることが街づくりへの第一歩
一方で、これらのアイディアを広げたり実現したりするには地域の人々の協力が不可欠です。
私たち専門家がどのような研究成果を示したとしても、地域の人々が主体的に動いてくれない限り、災害のリスクを下げることができません。
私は科学をもとに産まれたアイディアを地域社会の人々に伝え、一緒に考え行動し、科学者と社会が繋がる事によって50年後100年後を見据えた災害に強い街づくりを目指しています。