「単純な夢」を持とう 浜窪隆雄

「単純な夢」を持とう 浜窪隆雄

ガンを治したいという夢

昔から広く知られており、医学の発達した現在でも治すのが難しい病気に「ガン」があります。
抗ガン剤には強い副作用が伴うことも多く、治療を受ける患者さんは苦しみと闘わなければなりません。
白血病と闘う患者さんに接して、私はガン細胞を集中的に消滅させ、副作用を起こさないような画期的な薬を作りたいと思うようになりました。
そこで注目したのが「膜タンパク質」です。

夢の実現「抗体医薬」の開発

東京大学先端科学技術研究センター教授浜窪 隆雄

東京大学先端科学技術研究センター教授浜窪 隆雄

膜タンパク質とは細胞表面に存在する、いわば細胞の「顔」です。膜タンパク質の研究を行なっていた私は、ガン細胞と正常細胞の顔の違いを見つけ出し、ガン細胞だけを見分ける効果的な薬を作りたいと考えました。このように細胞の膜タンパク質の違いを認識して働く薬を「抗体医薬」と呼びます。ところが、これまでの抗体医薬開発はなかなかうまくいかず、コストも高額になってしまうため、多くの医師や製薬会社は抗体医薬の開発を断念していました。しかし私はガンの特効薬を作りたいという夢をあきらめず、様々な人たちと協力して、日本発のガンの薬づくりの努力を続けており、その成果が実を結び始めています。今では、乳ガンや悪性リンパ腫というガンをはじめ、リウマチなどの難病に効果的に働き、副作用も少ない抗体医薬が開発され、実用化されています。

数学で作る薬

ちなみに私は現在、医学部に入る前の大学で数学を勉強した経験を活かし、コンピューターを使って抗体医薬を作ることを目指しています。コンピューターの進化の速度は著しいものがあり、これまで考えられなかったことが実現できるようになっています。コンピューターで計算することで膜タンパク質の構造を導き出し、その膜タンパク質としっかりと結合するような薬をシミュレートすることで開発に役立てるのです。このシミュレーションに用いられる要素は物理学や数学です。意外に思われるかもしれませんが、これからの時代は数学で薬を作ることができる時代なのです。

新しい領域への挑戦

学校で習うことで、どうしてだろうと思うことがよくあると思います。その疑問がきっと新しい科学を創り出す原動力になります。これからの世代を担う若い人が新しい領域を創るという意気込みをもってどんどん飛び込んでいってほしいと願います。なにかの役に立ちたいと思い続けると、不思議と実現に向かっていきます。みなさんにはぜひ「夢を持って」もらいたいと思います。

東京大学先端科学技術研究センター教授

浜窪 隆雄