大人の階段のぼるヒラメの目

大人の階段のぼるヒラメの目

海底の砂地で、ぎょろっと光るふたつの目。
顔の左側に両目が寄っていることで有名なヒラメですが、じつは、生まれたときは他の魚と同様にからだの左右に目がついているのを知っていますか。

稚魚へと成長する変態期になると、ヒラメの右目は徐々に移動し始め、鼻の上を通り越して左目と並ぶようになるのです。
このとき、頭の中では意外なことが起 こっていました。まず、頭蓋骨の中でも右目を支える軟骨が、しだいに消えていきます。その様子は、まるで右目のために道を開け るかのよう。同時に、中脳にある視覚と関連した「視蓋」の右側のみが大きく発達していきます。目の移動だけでなく、頭蓋骨や脳まで ダイナミックな変貌を遂げていたのです。

この一連の動きを指示するのは、位置決定遺伝子「pitx2」。
じつはこの遺伝子、人をはじめとする脊椎 動物の多くが持っていることが知られています。通常では、発生の初期に心臓の位置や腸のねじれを決める重要な役割を果たしています。しかし、ヒラメの場 合、仔魚の時期にもう一度働くことで目の移動を誘導していたのです。

水深20~70mの海中で孵化した仔魚は、目の移動が始まると同時に、水深5~10mの浅瀬を目指します。そして、完全に目が左側に到達したタイミングで、ピタっと砂地にお腹側をつけて 着底生活を始めるのです。

成長したヒラメは、海底でじっとハゼなどの小魚を狙い、近づいた獲物をすばやく捕えます。瞬発力を必要とするため速筋が発達し、 その身は独特の弾力を持つようになるのです。

目の移動とともに、生活スタイルも徐々に変えていくヒラメ。彼らと目が合ったとき、その右目がたどってきた「大人の階段」の軌跡を思い描いてみませんか。

ヒラメ:Flounder

ヒラメ:Flounder