渋滞で悩んでいる分野はありませんか? 西成 活裕

渋滞で悩んでいる分野はありませんか? 西成 活裕

前半では、西成先生の研究者への道を聞いたが、後半ではその研究内容について掘り下げてみました。独創性が根ざしているのは、かつて通ったあらゆる分野の勉強という基礎だったのです。”

「研究をすぐに社会に還元したいという想いが強いんですよ」

そういう西成先生。専門分野を決めた時の決め方が面白かった。
「左側に、自分が得意な領域のリストを書き、右側に社会で困っていることのリストを書いて線で結ぶんです。そうするとね、数学と渋滞が結びついたんですよね」。 

数学をやりながら、その応用を同時に考えたい。

自分がこんなに感動した法則なのだから、必ず何かに応用できるはずだ。西成先生のアプローチはそういった想いからスタートする。
数学の定理を渋滞の解決に応用した初めての論文は、意外と良い物に仕上がった。そこからまた世界は拓けていく。 

渋滞というものは何も車だけの話ではないのだ

渋滞をキーワードに、色々な分野を横串に刺してみる。そうすると、経済学ではサプライチェーンの問題、生物学ではキネシンの仕組みに応用が出来る、化学では高分子の凝着直前の振る舞いに。

色んな学術分野で「渋滞」や「jam」というキーワードで検索をすると、沢山渋滞が発生している事がわかるんです。研究のネタは尽きないですよと、大きな声で笑う西成先生が今同時進行しているプロジェクト数はなんと20に登る。

研究の独創性を支えるアプローチ

一つおもしろい例を挙げてもらった。
建築工学では非常時の緊急脱出字において、人間がどうやって建物から脱出するのかが課題になる。火災などでパニックになった人は、従来は通路や扉等、狭い所で渋滞し脱出が遅れると考えられていたのだが、それはとても数理的に定量化出来るものではなかったのだ。

西成先生のアプローチは面白い。
この、定量化出来ない物を定量化する。ここに独創性がある。
西成先生はまず、社会心理学を学び、更には消防士の報告書を読みあさったのだ。火災の時に亡くなった人がどうやって逃げたのか。そこに習熟する。「ここまでやる人はいないでしょう」と話す。 

パニック度が定量化出来た

簡単に言うと人間は火災が起きると以下の行動を取るという。

1:自分できちんと判断をして、最短ルートで脱出を試みる
2:自分では考えられなくなって、考えを人に委ねた結果、誰かの行動に追従してしまう

1はパニックではなく、2の割合が大きくなるほどパニック度が高いと考えるのだ。
2の場合、例え先んじて動いている人が間違っていようとも、そこに追従してしまう。もはや自分では考えられなくなっているからだ。この状態をパニック度という変数に割り当て、緊急脱出時の避難安全検証ソフトに応用した。 

山の麓をくまなく探して、自分の道を見つけた

こうやって、ほぼ全分野で論文を書いたという西成先生。かつての指導教官の言った、山の麓をくまなく探した結果、今の分野を確立できたと話す。
今は毎年100人卒論学生が来ても足りないほど沢山のテーマが溢れかえっている。
4年生で国際ジャーナルに出たり、論文数が十分すぎて飛び級で博士号を取得したりする学生もいるという研究室になっているのだ。 

そんな先生が注目するのはビッグデータ

2年前にGoogleが出した論文に衝撃を受けたという西成先生。その論文の内容は、検索の動きを追っていくだけで、疾病の流行が予見できるというものだそうだ。徐々に増えていく検索行動を計測することで、実際に社会問題になっていく病気が可視化出来る。これは大きな衝撃を与えた。
今のビッグデータブームが過ぎ去ったあとで、研究を続けた人が「相対性理論などに匹敵するような理論を見つけ出すのではないか」と感じるという。
無限の価値をもっていると考えられるデータの山。まだ人類はそのほんとうの意味がわかっていないレベルだろう。その莫大なデータをどうやってものにしていくのか。

今や、データは単なるデータではない。そこに新しい法則が絶対にあると直感している。

西成先生からのメッセージ。データの山から人類は宝を見つけ出すだろう

西成 活裕先生の書籍はこちら

4106035707
渋滞学 (新潮選書)
486063456X
東大人気教授が教える 思考体力を鍛える

西成先生の本棚を見せてもらいました!

西成先生の本棚。岩波全集で物理をマスター。

西成先生の本棚。岩波全集で物理をマスター。