アツい魚、マグロがもつ奇妙な構造

アツい魚、マグロがもつ奇妙な構造

獲れたてのクロマグロに体温計を挿すと,実は30℃近くもあることを知っているでしょうか。生物は代たい謝しゃ活動を行う際,熱を生み出します。哺乳類や鳥類は,体表を毛で覆おおうことで熱を保ちますが,魚類の多くは熱を放出して,周りの低い水温とほぼ同じ体温になります。

マグロが高い体温を維持できる秘密は,血管構造にありました。魚類には血ち合あい筋きんと呼ばれる持久力に優れた筋肉があり,焼き魚の切り身についている皮のすぐ下に位置する薄茶色い部分がそれにあたります。マグロの血合筋は特に大きいといわれ,動脈と静脈が隣りん接せつした網目状の「奇き網もう」がそれを取り巻いています。体温を下げる要因のひとつとされるのが,エラから取り込まれた海水で冷やされ,全身をめぐる動脈の血液。これに,動脈のすぐ近くを流れる血合筋の伸縮運動によって温められた静脈の血液が熱を移動させるため,体温を高く保つことができると考えられています。
 
じつは,マグロは自らエラを動かすことができません。そのため,泳ぎ続けながら絶えず酸素を含む海水を体内に取り込まなければ,窒息死してしまいます。体温を高く保つのは,代謝効率を上げることで泳ぎ続けるエネルギーを得るためだといわれています。約4000 万年前,より多くのエサを獲るために外洋で生活するようになったマグロ属の祖先が獲得した,独自の体温保持のメカニズムなのでしょう。
世界で獲れるマグロ漁獲量の3 分の1 は,日本人が消費しているといわれるほどなじみ深いマグロは,とてもアツい魚だったのです。