感覚を数値化したい 吉川暢宏

感覚を数値化したい 吉川暢宏

いつまでも若く健康な肌でいたい。プルプルでモッチモチな赤ちゃんのような肌,特に女性の皆さんはあこがれるのではないでしょうか?

でもちょっと考えてみてください。あなたと隣の友達の肌はどちらがプルプルですか?
意外と答えるのが難しいのではないのでしょうか。
私はその「プルプル感」といった感覚を,数値で示したいと思っています。そしていわゆる「肌年齢」を決める数式を作りたいと思っています。

東京大学生産技術研究所革新的シミュレーション研究センター教授 吉川 暢宏

東京大学生産技術研究所革新的シミュレーション研究センター
吉川 暢宏教授

計算で肌年齢を出したい

肌の質感を構成する要素は,水分・脂分・肌のキメ細やかさなど,たくさんのものが挙げられますが,私は皮膚の「硬さ」に注目しました。
この硬さという要素は,バネをイメージしてもらうと分かりやすいと思います。
皮膚は指で押せばへこみますが,指を離せば戻ります。
つまんで引っ張れば伸びますが,離せば戻ります。
皮膚は若いころは柔らかく,歳をとるにつれて硬くなります。
そこで私は皮膚の硬さを調べれば,肌年齢を決められるのではないかと考えました。

ヤングな肌は柔らかい

皮膚の硬さと実年齢の関係性を細かく調べるうちに,ある関係があることがわかりました。
ある一定の力で肌を引っ張ったのち,離します。そのとき,肌が伸びる速さと元に戻る速さを測ってみると,若い人ほど肌が元に戻る速さが相対的に速いことがわかりました。
年を重ねて硬くなった肌は,元に戻る速さが遅くなってしまうのです。
この肌が元に戻る速さと実年齢との関連性をもとに,その関連を示す数式を作ることで「肌年齢」を計算できるようになりました。

ちなみにこの皮膚の硬さは‘ヤング率’と呼ばれる数値で示すことができます。
ヤング率が高いほど硬く,肌年齢は高くなりますが,この‘ヤング’はトーマス・ヤングというイギリスの物理学者に由来するものであって,young = 若いとは関係ありません(笑)。

数学によって科学が効率化される

このような「硬さ」を調べる研究は,材料工学と呼ばれる分野で非常に重要です。
例えば飛行機の翼を考えてみましょう。
高速で飛ぶ飛行機の翼は強い空気抵抗を受けるため,頑丈でなくてはいけません。
しかし,硬くても重過ぎると空を飛ぶのに不都合です。
そこで硬さと軽さのバランスを考慮する必要がありますが,ここで硬さという「感覚」を数値で表すことができれば,どのような材質が適しているかをコンピューターでシミュレートし,設計のムダを省くことができます。
私は硬さなどの「感覚」を「数値化する」ことによって,社会に貢献したいと思っています。

東京大学生産技術研究所革新的シミュレーション研究センター教授

吉川 暢宏