人工原子で量子を操る 中村 泰信

人工原子で量子を操る 中村 泰信

東京大学先端科学技術研究センターの中村先生は、2012年にNECのグリーンイノベーション研究所(現スマートエネルギー研究所)から東京大学へと移ってきたばかりの先生だ。
これからの研究の話しを聞いてきた。

中村泰信先生出身は西多摩郡日の出町。山に囲まれた環境で中村先生は育った。
中学生の頃には既に研究者になりたいと思っていたという。
中でも物理が好きだった。
大学に入ってからは高温超伝導フィーバー。学部から修士にかけて、高温超伝導の研究をしていた。 

研究の転機は突然やってくる

修士時代、論文紹介の授業で今までずっとやってきた高温超伝導ではない論文を読んでみようと思いついた。
メゾスコピック領域と言う、今で言うナノテクノロジーに相応する分野に魅了された。
微細化を進めることによって、量子効果が見えてくる。この分野で一体どんなことが起きるのかに世界が注目されつつあった時代。中村先生はその波に乗る。

最先端が企業にある時代

中村先生は日本電気株式会社(NEC)に就職している。
日本の電機産業が上り調子の時期で、基礎研究所を各社が設立するような時代だった。
当時、微細加工技術を駆使した電子デバイス研究の最先端は大学ではなく企業にあったのだ。 

単一電子トランジスタを超電導体で

トランジスタというのは、現代のエレクトロニクスを支えるスイッチングデバイス(On/Offを切り替える装置)だが、これでひとつひとつの電子の動きを制御するというのが単一電子トランジスタだ。
中村先生はこれを今までの経験から超電導体でやったらどうかと思うに至る。
超電導体で作った電気回路では量子力学的な効果が見えてくる。ニュートン力学では説明できない世界が実際に展開するのだ。
90年代の前半。まだ量子情報・量子計算という言葉が一般的でなかった時代に、もっとマクロな(大きな)世界でも量子的な効果が見えるのかどうかに関心は移っていった。 

今面白いのは数百ミクロンからミリの範囲

1980年ごろから議論に上がっていた、マクロの世界での量子効果の観察。
現代では数百ミクロンからミリのオーダーの回路の組み合わせが量子力学の原理に従って動くというところまで来ている。
適切に設計された物理系のもとでは量子状態を自在に操作し、観測することが出来るのだ。
人工原子と呼ばれる超伝導量子ビットは、実際の原子の一万~百万倍の大きさだが本物の原子と同じような不連続なエネルギー準位を取る。
実際の原子は自分の思い通りに設計できないが、この人工原子ならその振る舞いを、自ら作った仕組みで制御できる。 

超電導回路で量子状態を制御できるようになってきた

量子力学的な制御や、観測を自在に出来るツールは今まであまりなかった。
次のステップでは、これをツールとして使いたいという野望がある。
人工原子によって、他の量子系(例えば半導体のスピン等)の制御回路として使う等。応用がすぐに思い浮かぶのだ。 

日常生活で支配的なのはニュートン力学の世界だが、この微細な世界で起こる現象を支配し、次世代へ向けた研究を進めていく。

余談だが、中村先生の話の中で出てきた「量子力学が共通言語になった」というお話は面白かった。量子情報という概念が生まれて以来、量子力学を共通言語に他分野の人たちと会話ができるようになったという。
同じ分野の人だけではイノベーションは生みにくい。それを踏まえて東京大学のラボには、多角的な分野から人材を集めたのだそうだ。(原子物理、光格子、半導体スピン共鳴等)
「すぐにお金になるようなアプリケーションにはならないが、科学の発展に寄与できるのではないか」という中村先生の今後の活躍が楽しみである。

中村泰信先生からのメッセージ

中村 泰信先生の所属学会

日本物理学会
応用物理学会
アメリカ物理学会

本棚を見せてもらいました

中村泰信先生の本棚

 

量子情報物理工学分野 中村研究室