行政と現場をつなげる海の仕事

行政と現場をつなげる海の仕事

ヒラメも進路も大切なのは着眼点

神奈川県環境農政局水・緑部水産課水産企画グループ グループリーダー中村良成

神奈川県環境農政局水・緑部水産課水産企画グループ グループリーダー中村良成

「ヒラメっていうのは面白い魚ですよ」。
神奈川県庁水産課の中村良成さんは、目を輝かせる。
ヒラメといえば体の左側に二つの眼を寄せて海底に横たわる姿が浮かぶが、仔魚の頃は普通の魚のように体の両側に眼があり、海中を漂っているそうだ。
孵化後約2週間すると右眼が体の左側に移動し始め、更に約2週間、右眼が完全に移行した頃、ごく沿岸部の砂浜でピタっと砂地に腹側をくっつけて着底生活を始めるという。

中村さんは、この不思議な現象の解明を修士課程まで続け、修了後も魚に関わる仕事がしたいと考えていた。
そんな時に目に留まったのが神奈川県の職員採用試験。
「神奈川県では遠洋、沖合、沿岸それぞれに多種多様な漁業が営まれ、日本の水産の縮図でした。
また、黒潮の影響で相模湾からは日本全体の約4割にあたる1,500種強もの魚が記録されています。これは面白そうだと思ったんです」。

放流ヒラメを見つけ出せ!

県庁の水産課に配属されてから3年目に水産試験場(現水産技術センター)に異動すると、ちょうどヒラメの栽培漁業が始まるところだった。
栽培漁業とは、卵から育てた稚魚を海に放流し、大きく育ったところを漁業で回収するシステム。
市場サイズになるまで人が育てて出荷する養殖業とはここが大きく異なる。

重要なのは、放流した魚がどの位回収できるかである。
放流時の稚魚のサイズや放流場所、時期によって回収率が大きく異なるのだ。
「天然ヒラメは表(眼のある側)が黒褐色、裏(眼のない側)が白色ときれいに分かれますが、放流ヒラメには、表が白くなったり裏に黒斑が出現する体色異常が発生するので、天然魚と区別がつきます」。(放流までに経験する環境の差、自然の砂底とコンクリートの底、天然プランクトンと配合飼料の違いなどが原因だと考えられているが、はっきりしたことはわかっていないのだとか。)

中村さんは、あれこれと放流効果を実証するために試行錯誤する傍ら、現場に通っては漁業者と情報交換をしてきた。
「ヒラメは高級魚ですから、最初は魚にすら触らせてもらえませんでした。でも、何度も何度も通うことで少しずつ顔も覚えてもらいました。」と話す。

天国は意外にも近くにあった

水産試験場が生産したヒラメの稚魚は、まずは東京湾に放流することになった。
東京湾は、埋め立ての進行や富栄養化で水深10m以深の泥底が広がる内湾。
天然のヒラメの稚魚が育つ外海に面した砂浜の浅瀬とは環境が大きく異なる。
東京湾にヒラメを放流するなんて無茶だと考えていた中村さん。

「いや、放流地点を選べば何とかなるんじゃないか。やってみようよ」という漁業者の言葉を信じて挑戦してみた。
すると、成長率は通常の約2倍にものぼり、一夏に水揚げされた約3,500尾のヒラメのうち、何と3,200尾が放流魚だったという漁港もあった。
東京湾にはよき餌となるハゼなどの小魚が大量に生息していたため、放流ヒラメにとっては天国だったのだ。

「漁業者はまさに漁「師」です。会うたびに何かを教えてもらっています。」と、中村さんはしみじみ語る。

「約10年間、放流ヒラメを求めて神奈川県中の魚市場や漁港を駆けめぐってきました。水産課と水産技術センターを異動することもありましたが、漁業現場と向き合う面白さ、醍醐味はいまでも変わりません」。
毎朝、魚市場に足を運び、漁師さんに漁の状況を聞き、一尾ずつヒラメを裏返しては天然魚か放流魚か確認する。
行政と現場のちょうど真ん中で、中村さんは今日も魚の研究をしている。

中村良成

    * 神奈川県環境農政局水・緑部水産課水産企画グループ グループリーダー
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