たんぱく質の破壊屋 村田茂穂

たんぱく質の破壊屋 村田茂穂

大事なものを、なぜ壊す

生き物の体のなかには何万種類ものたんぱく質があり、細胞のなかでは日々たんぱく質をつくるためにたくさんの仕組みがひっきりなしに動いています。私たちは1日3食、せっせと食事をとり、細胞のなかで必要なたんぱく質の部品を栄養分として摂取します。たんぱく質が足りなくなると、体の機能に異常をきたします。だから、たんぱく質はとても大事なもの。そのため、つくったたんぱく質をわざわざ壊す仕組み、プロテアソームというものが備わっているということは多くの生物学者にとって信じがたいことでした。

 細胞には掃除が必要だった

プロテアソーム自体は60個くらいのたんぱく質が組み合わさった複合体です。たんぱく質のかたまりの中に、分解する働きを持ったたんぱく質が含まれており、狙ったたんぱく質を分解できるようコントロールされているといいます。いったいなぜ、たんぱく質を壊す仕組みというものがあるのでしょうか。これは、たんぱく質をつくる仕組みの欠点を補うため、という説が有力です。ある試算によれば、からだのなかで作られるたんぱく質の3分の1が不良品だといいます。プロテアソームは、不良品をすみやかに壊し、不良品のたんぱく質がからだに貯まることを防いでいると考えられています。村田さんは「つくるのも大事だけど、つくったものを壊すのも同じくらい大事なことだと思っています」と話す。

プロテアソームをねらった医薬品開発 

このことから、アルツハイマーやパーキンソン病といった異常たんぱく質が蓄積して起こる病気の解決にプロテアソームが活躍するのでは、と期待されています。異常たんぱく質が増えてしまうのを、プロテアソームの働きをよくすることで改善する、といったアプローチでの研究が進められています。

村田さんが注目しているのは、逆にプロテアソームが働き過ぎることで起きる病気、がんです。異常なプロテアソームができることで、正常な状態よりもたんぱく質が分解されすぎてしまうのではないか、そのせいでがん化メカニズムが活発に動いているのではないかと考えて、プロテアソームががんを起こす詳しい仕組みを調べています。さらに、村田さんの研究グループが開発した薬は、プロテアソームの部品であるたんぱく質が順番に組み合わさる過程をゆっくりに変える薬ができます。こちらも近い将来、がんの医薬品として活躍することが期待されています。

 基礎科学が新しい医学をつくる

そんな村田さんは実は元お医者さん。医者から薬学の研究に分野を変えた経験を持っている。「薬学の研究の醍醐味は、メカニズムの理解によってまったく新しい医学を創り上げることができること。ベーシックな科学を、自分で追求してみるのは面白いです。一生やるならこちらだと思っています」と話す。

 

協力

東京大学薬学系研究科蛋白質代謝学教室

村田茂穂 教授

ホームページ:http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~tanpaku/papers2.html

これが村田先生の本棚だ!