不遇なフグには毒が無い?
薄く花びらのように調理された「てっさ」で知られるフグ。
しかし、命を落としかねないほど強烈な毒であるテトロドトキシンを持っています。
「ふぐは食いたし、命は惜しし」という言葉があるように、昔から日本人はそのジレンマに頭を悩ませてきました。
毒をもたない安全なフグを育てることは、悲願だったのです。
1964年、大きな発見がありました。
フグ特有と思われていたテトロドトキシンが、初めて他の生物からも見つかったのです。
フグの体内でつくられるという定説がくつがえり、海底に存在する微量のテトロドトキシンをもった貝やヒトデを食べて蓄積していくことが明らかになりました。
さらに研究が進められ、海底のエサを食べないように網で囲って養殖すると、無毒になることもわかりました。
産卵期が近付くと卵巣や卵の毒性が一層強くなることから、蓄積したテトロドトキシンは、子孫を守るために使われていると考えられています。
また、1995年にはテトロドトキシンがメスがオスを引き寄せるためのフェロモンとして働くことが、2002年には、フグの免疫力を向上させる効果を持つことが報告されました。
さらに、テトロドトキシンを摂取しないフグは攻撃的になり、お互いを噛かみ合ってしまうことから、気持ちを落ち着かせる鎮静作用があるとも考えられています。
研究者たちの努力で養殖方法が改良され、毒のない安全なフグをつくり出すことはすでに不可能ではありません。
でも、当事者のフグは、大切な毒と切り離されるなんて不遇な扱いだと、ふくれているかもしれませんね。(文・林慧太)