ガンマ線で解き明かす宇宙線誕生の謎
今からちょうど100年前、オーストリアの研究者が宇宙から降り注ぐ高エネルギー粒子を発見しました。宇宙線と名付けられたこの粒子は物理学者の関心を集め、多くの研究が行われました。しかし、発見から100年たった今も宇宙線は多くの謎に包まれています。森先生は、そんな宇宙の秘密を解き明かすために、私たちとはまったく違う方法で、夜空を眺めています。
星の終わりを伝える信号
宇宙線の正体は、宇宙から降り注ぐ高エネルギーの粒子です。
太陽表面の爆発によってつくられる太陽宇宙線の他に、もうひとつの宇宙線が存在します。
その宇宙線は「銀河宇宙線」と呼ばれ、太陽宇宙線の10億倍という非常に高いエネルギーを持っています。
銀河宇宙線は、大きな星が一生を終え、爆発する際などに発生すると予想されていますが、実はまだ誰も証明できていないのです。
電磁波で宇宙線の発生源を探る
宇宙線の発生源を見つけるのが難しいわけは、宇宙空間にある磁場にあります。
電荷を持つ宇宙線は磁場によって進む方向を曲げられてしまうため、宇宙線がやって来る方向を観測しても、発生源の天体を見つけることはできません。
そこで森先生は、銀河宇宙線が発生する際、一緒に発生するX線やガンマ線などの電磁波を計測しています。
電磁波は宇宙線と違って電荷を持たないため、宇宙をまっすぐ進みます。
地上での実験結果から、銀河宇宙線と一緒に生じる電磁波がどの波長でどのぐらいのエネルギーであるかというエネルギー分布を計算することができるようになりました。
つまり、エネルギー分布の観測データと期待される分布が合えば、銀河宇宙線の発生源を見つけ出すことができるのです。
しかし実際はさまざまな要素が混ざり合うためぴったり両者が一致することはなく、森先生は日々観測を続けてデータを集めています。
「観測の精度を上げることがこれからの課題」と先生は言います。
太陽系の片隅で大宇宙を解明する
中学時代に友人と流星観測をしたことがきっかけで天文学に興味を持った森先生。
しかし、大学ではノーベル物理学賞を受賞した湯川博士に憧れて、理論物理学の道を志します。
天文学に戻ってきたきっかけは実は偶然。「大学院に進学するとき、志望していた素粒子論と高エネルギーの研究室に入ることができなかったんです。
それで宇宙線の研究室に入ったことが今の研究に進むきっかけでした。
ほんの小さな存在の人間が、たかだか地球近辺で観測したことで、宇宙全体のことがわかることがおもしろい。
太陽系ぐらいだと近すぎて私の研究には対象外なんです」。
数万光年先、私たちが一生かかっても辿りつけないほど遠い世界の解明に、森先生は挑んでいます。