食べる幸せ、脳で感じよう 饗場 直美
あなたは、食事の時間が待ち遠しいですか?最近の調査では、この質問に対して、「とても待ち遠しい」と答えたのはたったの3割でした。その原因のひとつは、いつでもどこでも、食べたいものが手に入るようになったこと。でも、それって「幸せ」なことでしょうか?
現代の食事の問題点
さまざまな食べ物にあふれている豊かな現代。ヒトは他の動物と違って、お腹が空いたら、身近なスーパーやコンビニ、飲食店に行けば、すぐにお腹を満たすことができます。
その結果、よくいわれる「腹八分目」程度で、自分で食べる量を調節できればよいのですが、食欲に任せて食事をし ていると、カロリー摂取量が多く摂りすぎ太ってしまう時代になりました。
肥満は糖尿病、脳梗塞 などさまざまな病気を引き起こす大きな要因です。
そのため、食事療法はさまざまな場面で行われていますが、「もともと食に興味のない人は、いざ病気になったときに食習慣を変える意識を持つことが難しいのです」と饗場直美さんは言います。
「薄れている、現代人が食への興味を取り戻し、感じ、考えながら食事をしてくれるようになってほしい」。
そこで、食事をすることと脳との関係について、研究を進めようとしています。
高カロリー食品を見たとき、どう思う?
アメリカ、ハーバード大学の研究グループは、脳の血流量の変化を検出できる機能的磁気共鳴画像法(fMRI;functionalMagneticResonanceImaging)という方法を使って、食べ物を見たときに脳のどの部分が活動するかを観察しました。
10代の子どもと、大人に高カロリー食品を見せると、子どもの場合は視覚認識部位しか働かないのに対し、大人は前頭葉前部でより強い反応が見られました。
前頭葉前部には、長期的な報酬を最大化させるために目先の利益へ向かう行動を抑制する機能があります。
子どもと違って、大人はこれまでの知識と経験から、高カロリー食品に対して反健康的なイメージを起こし「食べ過ぎてはいけない」という抑制的な調節機能を発揮しているものと考えられます。
同じ食べ物を見た場合でも、脳に蓄えられた過去の情報によって脳の反応が違うのは、発達によって食の好みが変わるということ。
そこには、食経験、食教育が重要であると考えています。
饗場さんは、「おいしい」ものを食べたときの脳の活動を画像データとして得ることを目指しています。
「今はアンケート調査がメインですが、おいしいという感覚は主観なんです。
これに客観的なデータを加えて説明できるようにしたいですね」。
まだまだわからないことの多い、ヒトが食べることと脳との関係。
主観がつくられる過程についての研究から、人々が食への興味を取り戻すヒントが見つかるかもしれません。