アマチュア集団、宇宙を目指す 久保田 弘敏
久保田弘敏さん率いる、帝京大学「宇宙システム研究会」がつくる小型人工衛星「TeikyoSat-3」は、2013年度にH-IIAロケットに相乗り搭載される。粘菌という単細胞生物を世界で初めて小型の衛星で宇宙に連れて行く、という壮大な計画を載せて。しかし、開発メンバーは全員、人工衛星も生物も知らない「アマチュア」だ。
人がやらない新しい分野を狙え
航空機やロケットが飛行する際に機体に加わる熱や空気抵抗などについて研究していた久保田さんが人工衛星をテーマにしたのは、5年前に帝京大学に移ってきてからだ。
小型の人工衛星なら、専門外の自分でもやれるのではないか。
ライバルの少ない分野に焦点を絞り、生物を載せた人工衛星を打ち上げようと決めた。
しかし、久保田さんをはじめ、学生も生物の知識がほとんどない。
そこで、同じキャンパスにあるバイオサイエンス学科/柔道整復学科の若林先生に相談したところ、 「細胞性粘菌」を勧められた。
細胞性粘菌は、植物と動物の両方の特徴を持つ。
動物のようにエサを求めて移動する一方、飢餓状態になると、運動をやめて上に柄えを伸ばし、植物の種子のような胞子を形成することが知られている。
微少重力の宇宙空間でも、上に柄を伸ばして胞子をつくるのだろうか。
上手くいけば発生学の発展に貢献できるのではないか。
打ち上げた人工衛星内で粘菌を培養し、撮影した画像を地上へ送信して、地上での挙動と比較することが今回のミッションだ。
アマチュア集団に集まる夢
機体の作製は、久保田さんがこれまでの研究で 培ってきた知識が活きる場面。
しかし、どうして も超えられない壁があった。金属を溶接してつくる容器だと、つなぎ目から空気が漏れてしまい中の気圧を保つことができないのだ。
そこへ、善意ある栃木県内企業が協力を申し出てくれた。
大きなアルミニウム合金の固まりを削って容器のかたちにする「削り出し」の技術で、つなぎ目のない容器をつくることができたのだ。
「僕らは人工衛星をつくるのも初めてのアマチュア集団。
でも、大学も、地域も応援してくれるんです」。にっこり笑う久保田さんの人柄、そして誰しもが持っている宇宙へのあこがれが、このプロジェクトに人を惹きつける。
果たして久保田さんは、自分の夢、そして学生や仲間の先生、企業の夢を載せて衛星を打ち上げることができるのだろうか。打ち上げの日まで、あともう少しだ。
注目!→宇宙システム研究会の学生に話を聞きました! http://bit.ly/someone-teikyoSS