私たちの五感をつくる、 おしゃべりな細胞たち ノーベル化学賞2012
部活後の帰り道、カレーの匂いにふとお腹が鳴る。
気になるあの子に声をかけられて密かに心拍数が上がる。
私たち動物は常に、におい、音、光などの外部からの情報に反応して生きています。
今年のノーベル化学賞は、細胞が刺激を受け取り、体中に伝えるために必要なGタンパク共役受容体についての研究成果に対して授与されました。
動物は眼や鼻などの受容器で刺激を受け取り、それに対して筋肉などの効果器で食べる・逃げるといった反応を起こします。
私たちの体の最小単位は「細胞」です。
膜で包まれたたった10~100µmサイズの細胞はどのように情報をやりとりし、全身の器官をつないでいるのでしょう?
実は細胞膜上に埋まっているGタンパク共役受容体を介して情報をやりとり、いわばおしゃべりをしているのです。
このタンパク質は、アミノ酸が連なった1本のひもを「なみ縫い」するように細胞膜の内外を7回貫通した形をしており、膜の外側には情報伝達物質を受け取る部位が、そして内側にはGタンパク質との結合部位があります。
このGタンパク質は外から受け取ったメッセージを増幅して細胞内へ伝え、細胞の変形や、別な細胞へ情報伝達物質を発して働きかけるなどの新たな反応を引き起こします。
今回ノーベル賞を受賞したLefkowitz博士は1968年、情報伝達物質の1つであるアドレナリンを放射性同位体で追跡することで、Gタンパク共役受容体を初めて発見しました。
もう1人の受賞者Kobilka博士は1980年代、ヒトの遺伝情報からGタンパク共役受容体の設計図を探し出し、様々な場所にGタンパク共役受容体があることの発見に貢献しました。
現在までに、鼻や筋肉、神経細胞などヒトの全身で700種類以上ものGタンパク質共役受容体が活躍していることがわかってきています。
実は多くの薬が作用するのもGタンパク共役受容体。
この発見は医学・薬理学の飛躍的な進歩へとつながっていきました。
私たちがカレーの匂いや味を楽しめるのも、恋のドキドキを味わえるのも体中のGタンパク質共役受容体たちのおかげ。
日々の生活の中で鮮やかな感覚に出会えたら、細胞膜で働く受容体のことを思い出してみてください。
ライター 新井佑子
お腹が減ると食べ物の匂いに敏感になり、自分が動物だと実感します。普段の何気ない生活の1コマに関わってくるのが生物学の魅力だと思います。