現場とメーカーの架け橋を育てる 小林 敏明

現場とメーカーの架け橋を育てる 小林 敏明

「自動車整備士といえば無類の車好き」。そんなイメージを、小林先生は見事に覆してくれた。出かけるときの運転も好きではなく、各メーカーから毎年発表される新車にもあまり興味がないという。しかし、仕事となると話は別だ。

意外なところで故障!

小林 敏明 こばやし としあき 栃木トヨペット(株)にて整備士として 10 年間勤務。その後、 日産栃木自動車整備専門学校(現・日産栃木自動車大学校) 1 級および 2 級課程において教育や教材研究に 22 年間従事。 2009 年より帝京大学勤務。第一回 1 級小型自動車整備士検 定試験において 1 級小型自動車整備士資格取得。

小林 敏明 こばやし としあき
栃木トヨペット(株)にて整備士として 10 年間勤務。その後、 日産栃木自動車整備専門学校(現・日産栃木自動車大学校) 1 級および 2 級課程において教育や教材研究に 22 年間従事。 2009 年より帝京大学勤務。第一回 1 級小型自動車整備士検 定試験において 1 級小型自動車整備士資格取得。

車で故障というと駆動系・機械系というイメージだが、自動車をよく見てみると電気が使われている部分は非常に多い。
エンジン、トランスミッション(変速機)、ブレーキ、パワーステアリング…今、自動車は電子制御でなければ動かないのだ。
機械系の故障の場合はその部品を交換すれば解決できるが、電子系は難しい。
ひとつのセンサーの信号がいくつものシステムに関連しているからだ。
たとえば車速を測るセンサーの信号は、エンジンにも、トランスミッションにも、ブレーキにもメーターにも関連している。その信号を効率よく送るため、各システムのパソコン同士をLANケーブルでつないでいるため、複雑な故障が起こりやすい。
栃木トヨペットで整備士として働いていたある日。
持ち込まれた自動車は、スモールランプ(車幅灯)を点けるとヒューズが飛ぶという故障を抱えていた。
配線はすべてコネクタで分けられているため、ショートしているのが車 体の前側なのか、後ろ側なのか、コネクタを切り替えながら探っていく。
この場合に厄介なのは「スモールランプを点けると」というところ。
スイッチを入れると、前後のスモールランプが点くのはもちろんのこと、メーターやオーディオ類の表示部分が光るなど連動する箇所が多く、ショートしている場所を特定するのが非常に大変だったという。
最後の最後に、トランスミッションにあるNやDといった表示を点灯させる部分の配線でショートを起こしていることを突き止めたが、丸一日がかりの作業になっていた。

「こんなところだったのか!と悔しく思ったので、よく覚えています」。

小林先生は今でも、難しい故障の原因を突き止めて修理することに整備士のやりがいを感じている。

変革を遂げる自動車

小林 敏明 こばやし としあき 栃木トヨペット(株)にて整備士として 10 年間勤務。その後、 日産栃木自動車整備専門学校(現・日産栃木自動車大学校) 1 級および 2 級課程において教育や教材研究に 22 年間従事。 2009 年より帝京大学勤務。第一回 1 級小型自動車整備士検 定試験において 1 級小型自動車整備士資格取得。小林先生が自動車の整備士を目指すことになったきっかけは、身近なところにあった。町を歩いていると目に入ってくる、自動車整備工場の仕事風景。
「おもしろそうだな、と思って」高校卒業後、整備士になるために専門学校で学び、栃木トヨペットに就職。
約10年間の勤務後、日産栃木自動車大学校で整備士を育てる指導員として22年間勤務した。
こうやって小林先生が30年以上も自動車整備に携わる間も、自動車は大きな変化を遂げている。
特に、排ガス規制が自動車の中身をより複雑なものにした。
運転状況に合わせて無駄なく燃料を供給することが排ガス対応の決め手。小林先生が整備士になったばかりの頃はまだ、 「キャブレーター」という部品で大ざっぱな制御しかできなかったのが、電子制御化によって細かい制御が可能になったのだ。
今では、自動車好きの人の中でさえ、キャブレーターを知らない人がいるほど昔のものになってしまった。
さらに、世の中の流れはハイブリッド、そして電気へと進んで行く。
「私くらいの年代の整備士は、技術の移り変わりを全部体験していることになりますね。
次々と新しいものに対応しなければならないので苦労しましたよ」と当時を振り返る。

専門知識+αで活躍する

2009年1月から小林先生が教鞭を執っている、
機械・精密システム工学科オートモビル・テクノロジー・コース(ATCコース)は、国土交通大臣認定2級ガソリン自動車整備士養成コースだ。
「これからの整備士は、電子制御を学ばないと修理も難しいでしょう。
学生には、そういうシステムの基本から教えていきたいですね」と話す。
しかし、コースの学生に「整備士」になってほしいという考えはないという。
「整備士になるための知識や技術だけでいいなら、専門学校で十分。4年もかかる大学で、それだけではもったいない」。
小林先生は、さまざまな授業や卒業研究、キャンパスライフなどから、整備士の知識・技術+αのものを得てほしいと願っている。
自動車に関する知識と一般教養の両方を身につけて、修理の現場とメーカーの架け橋となれる人材になってほしいのだ。
自動車の電子化は、非常に速いスピードで進んでいる。
次はいよいよ、モーターやバッテリーといった動力の制御が電子化されるのでは、と小林先生は見ている。
それが実現されれば、整備士の仕事は半減するだろう。
「部品点数も減るし、点検や修理の工程が変わりますから。いじるおもしろみがなくなりますね」と少し寂しそうにしながらも、「自動車はこれまでの技術の頂点に立っている。その技術をひとつひとつ勉強していくことで、先人の技術や考え方を知り、技術者としてのおもしろさをわかってもらえたらうれしいです」と、学生とともに研究し、技術を磨いていく日々を楽しんでいるようだ。