世界一を求めて,極限環境に挑む 今中 忠行

世界一を求めて,極限環境に挑む 今中 忠行

地球に生命が誕生して38億年。
その長い歴史の中で,地球環境は大きな変化を遂げてきました。
それでも,生き延びてきた多種多様な生物は,およそ870万種にも及ぶと言われています。
その中には,私たちには想像もできない環境に適応した生物たちがいるのです。

微生物の特殊能力を利用する

立命館大学生命科学部 生物工学科 今中 忠行 教授

立命館大学生命科学部 生物工学科 今中 忠行 教授

火山の噴火口付近や温泉の源泉などの高温環境下,北極や南極など氷点下になるような地域,光も届かず高い水圧にさらされる深海など,人間には住むことができない極端な環境を好み,生息している微生物を「極限環境微生物」と呼びます。
極限で生き抜く微生物を調べることができれば,熱に強い素材を創り出したり,氷点下でも凍らないしくみを明らかにしたりと,研究開発への応用が期待できます。
 今中先生が研究対象としているのも,超好熱菌と呼ばれる極限環境微生物の一種です。
国内外から土や水を採取し,その中に生息している微生物を培養し探索するスクリーニングという手法を繰り返して得られた候補は200種類以上。
増殖速度や培養のしやすさなどいろいろな視点から評価を続けて見つけ出した超好熱菌のエリートが鹿児島県の小宝島の温泉に生息するThermococcus kodakarensis(KOD1株)でした。

1から10まで,すべてを手がける

「100℃を超えるような熱湯でも生きている。
耐えているのではなくて,高温が好きなんです。
なぜそんなところに住めるのか。
不思議でしょう?」そんな疑問を解決するため,KOD1株を大量に培養する技術を確立し,遺伝子を組み換えたり欠損させたりする技術や,どのようなタンパク質が働いているのかを調べる解析方法をつくり上げました。
時には大型培養装置の設計や,増殖シミュレーションソフトの開発など専門外の分野にも挑戦したといいます。
あらゆる研究手法が揃ったKOD1株は,今では世界中の研究者が扱う,超好熱菌研究のスタンダードになっています。
 「すべての学問はつながっているんです。
だから『私の専門は◯◯です』なんて決め込まないことがポイント。
興味に向かって突き進めばいいんですよ」。

やるからには世界一!

研究の過程でKOD1株から見つけ出した耐熱性のDNA複製酵素『KODシリーズ』は,DNA鑑定などで行われるPCR法に用いる,世界一高性能な酵素として知られています。
そのインパクトはKODを文字ってKing of DNA Polymerase(*1)と呼ばれるほどです。
 「日本一高い山は富士山,日本一大きな湖は琵琶湖。
では2番目は?意外と2番目は残らない。
どんなものでも1番を取ることに意味があるし,それが歴史に残るんですよ」。
手がける研究はすべて世界一を目指しているという先生。
実際に南極を訪れて採取してきた新種の微生物や,KOD1株の新たな性質を活かした研究など,今も次の世界一を目指して,新たな研究を進めています。
また近いうちにあっと驚くような研究成果が発表されることでしょう。
(*1)DNA polymerase:DNA複製酵素