この世から交通事故を無くしたい 熊谷徹
警察庁交通局が公開している統計データ(http://www.npa.go.jp/toukei/index.htm#koutsuu)によると、平成23年度の交通事故発生件数は約70万件にも及ぶ。
死者数も5千人近くに上っている。
交通事故は日常茶飯事の出来事で何も珍しいことではないのが現状だ。
これを憂い、立ち上がった研究者がいた。
産業技術総合研究所の熊谷博士だ。
「この世から交通事故を無くしたい。」
そう思い立ち、この難題に挑み始めた。
この世から交通事故を無くすために、読者の皆様なら何をするだろうか。
車に自動停止装置を搭載する?よそ見を防止する仕組みを考える?やり方は色々あるが、熊谷博士が考えたやり方はこうだ。
「人間の運転行動モデルを作成しよう。そして、事故を起こす運転行動パターンが見られた場合に事前に予防策を打てるシステムを開発しよう。」
交通事故の原因として運転者の不注意や操作ミス等事故直前の行動に焦点が当てられることが多いが、実は、事故が起こる場合、その前兆はもっと前の段階で表れているのではないか。
その段階で事故予防策を打てれば事故が無くなるのではないか。
そもそも人間の複雑な運転行動をモデル化するなど可能なのか?可能だったとしても、そのモデルを用いて未来に事故を起こすかどうかを予測することなど出来るのか?出来ないという意見が圧倒的多数だった。
しかし、熊谷博士はこう考えていた。
「理屈の上では出来るはずだ。」 熊谷博士は早速行動に移した。
モデルを作成するためには、ドライバーの実際の運転を計測したデータが必要だ。
これには国のプロジェクトで開発された運転行動データベースを用いた。
20~71歳の男女、計97名、総走行距離約3.1万kmにも及ぶ世界最大規模のものだ(http://www.hql.jp/database/drive/index.html)。
その中で、特に事故の多い交差点での右折運転行動をまずモデル化した。
モデルは実際に作成出来た。
そして、見事に事故を起こす右折運転行動パターンが導き出された。 運転手の行動パターンによって今後事故を起こしそうかが分かる、これは凄いことだ。
これによってドライバーに適切なタイミングで注意を促すシステムを開発することが可能となる。
この世から交通事故が無くなる方向に1歩前進だ。
熊谷博士の挑戦は始まったばかり。
交通事故を無くすためにしなければならないことはまだまだ山ほどある。
出来ないと言われることにチャレンジすることは楽しい、事故の心配が無く快適に楽しめる運転を模索していきたいと熊谷博士は語ってくれた。(鈴木孝洋)
熊谷徹 博士(工学)
独立行政法人 産業技術総合研究所
ヒューマンライフテクノロジー研究部門
ユビキタスインタラクショングループ