「良いもの」をつくるための「良いもののつくり方」を考えよう 谷口一徹

「良いもの」をつくるための「良いもののつくり方」を考えよう 谷口一徹

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理工学部 電子情報工学科 谷口一徹 助教

携帯電話,テレビ,パソコンや家電品。私たちが毎日使うこれらの内部では,数千~数億ものトランジスタを集積した数cm角のLSI(大規模集積回路)を核とした電子システムが情報処理を行っています。そのようなシステムを,いかに省電力かつ高性能に設計するか。その「設計図のつくり方(設計手法)」を谷口先生は研究しています。

谷口先生

性能のカギは,ハードとソフトの組み合わせ

日々増え続ける,膨大な情報。ハードディスクや光学ディスクなどに人類が記録できる情報の量は2007年時点で295×1018バイト(DVDに記録して積み上げると,高さ5万km以上!)にも達しています。日々増え続ける情報量に追いつくため,コンピュータの中で情報処理を行うLSIの性能を向上させようと,これまでさまざまな工夫が行われてきました。
「電子システムの性能は,ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで決まります」。ハードウェアとは,LSIとして実装された電気回路そのもの。ソフトウェアは,その回路をどのように使うか,というプログラム部分のこと。谷口先生は,ハードウェアを電卓に,ソフトウェアを計算にたとえます。「“たし算ボタン”しかない電卓で33×51の結果を知るためには,33を51回足せば答えが得られます。これが,ソフトで計算する方法。回路は単純で済みますが,その分時間がかかる。そこで,“かけ算ボタン”という新たな回路を電卓に組み込みます。頻繁に行う計算は,ハードに組み込んだ方が速くなるんです」。映像の表示や電話,通信など用途によって異なる要求性能を満たすために最適なハードとソフトの組み合わせを設計できれば,性能向上と低電力化を実現できるはずです。

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ハードの性能を最大限に引き出すには?

ハードとソフトの最適な組合せを見つけ出すためには,ハードの性能を最大限に引き出す良いソフトを用意することが重要です。そこでポイントになるのが,処理をどういう順番で実行するかを決める「スケジューリング」。電子システムは,ひとつひとつの処理の実行順序によって,性能や消費電力が大きく変わるのです。そこで谷口先生は,高性能と省電力を同時に実現するスケジューリングを自動で決定する方法を研究しています。良いソフトがあって初めて,良い電子システムができるのです。
今は,ソフトをつくる人と,ハードを設計する人とが別々の専門家として存在する状況。でも,最適なシステム設計は,行いたい処理によっても変わります。実現したい処理にあわせて,どの部分をハードで担い,どの部分をソフトで計算するか。その組み合わせ次第で性能や消費電力は大きく変化するのです。「効率よく良い設計ができるようになれば,いろんな良い製品をどんどん世界市場に出すことができます。世界中に日本の製品があふれているのは,日本の技術力の高さの証なのです」。いい設計図を考えるだけでなく,いい設計図をつくる方法を研究する。こんな考え方こそが,世界に広く影響を与えることになるのでしょう。