みんなの未来を支える橋となれ 野阪克義

みんなの未来を支える橋となれ 野阪克義

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理工学部 都市システム工学科 野阪克義 准教授

高度経済成長期につくられた日本各地の橋。長い年月にわたり使用され,私たちをとりまく環境の変化も重なって,その多くで改修や再建設などの対策が必要とされています。しかし,その数は多く,費用と手間がかかるのが問題となっています。野阪先生は,これらをつくり直すのではなく補強することで,これからも安全に橋を使用できるのではないかと考え研究をしています。

野阪先生

橋のキズにも絆創膏

「つくられたころには想像できない量の自動車が行き交い,またその重量も増えているため,多くの橋は悲鳴を上げています。これをどうにかしようと,橋を補強して耐用年数を増やす手法を研究しているんです」。目を付けたのは,軽くて丈夫な炭素繊維強化樹脂(CFRP)でした。
CFRPは,糸状にした炭素(炭素繊維)を織り重ね,樹脂で硬化したもの。比重は鉄の1/4でありながら,10倍もの強度があるため,最新旅客機であるボーイング787では機体重量の半分程度がCFRPで構成されるほど注目されています。さらに,疲労に強く,錆びない,化学的・熱的に安定といった様々な特性を活かし,まるで絆創膏で手当てをするように,亀裂部分に貼りつけることで補強しようと考えたのです。

貼る前のひと手間で「縮む素材」へ

「単に亀裂部分に貼るだけでは,かなりの量が必要となり,コストも手間も増えてしまいます。そこで,すこし伸ばした状態でCFRP板を貼る事で,縮む方向に力が働いて,亀裂の広がりを効率よく抑えることができるのではないかと考えました」。一方で,伸ばした状態で貼り付けることによってはがれやすくなる,という欠点もあります。そこで,1cm2あたり300kgの収縮力が働くようにCFRP板を鋼板に貼りつけて,引張試験(CFRP板を1mm/分の速度で引張力をかけ続け,はがれる様子を確認する)や疲労試験(1cm2あたり100〜400kgの力を1秒間に2回,200万回繰り返し,はがれないか確認する)を行い,CFRP板のはがれやすさを検証しました。その結果,繰り返しの力に対しては問題ないことや,どの程度はがれやすくなるかなどが分かってきました。しかしながら,接着層の厚さに微妙な違いが生じることや,気泡が入ってしまうことなどから,十分な接着効果が得られない場合もあるという課題も見えてきました。現在は,CFRPの伸ばし方や接着のしかたなどの検討を進めることで,より効果の高い補強方法の開発を進めています。

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新しい技術を導入する架け橋に

日本では,「確実に安全」という橋をつくろうと,独自の設計方法が発達してきました。一方で海外では,橋が耐えるべき限界の状態を設定し,橋全体としてそれを支える設計方法も取り入れられています。「新たに生まれてくる,より使いやすい,強い鋼材を導入するため,新しい設計方法を考案したり,他国の設計方法の良いところを取り入れたりすることを考えています。より丈夫で長持ちする橋を,少ないコストと材料でつくることができるはずです」。
新しい考え方を取り入れながら,工夫を凝らして実験を行い,小さな発見を積み重ねていく。その一歩一歩から,未来の安全な橋がつくられていくのです。