人間観察から、未来の建築が生まれる
理工学部 建築都市デザイン学科 宗本 晋作 准教授
デザインとは,人間の行動を観察する中から生まれてくるもの。宗本先生の建築に対する考えを聞くと,そう感じられるようになります。人の感性を分析し,表現に活かす。あるいは,表現の裏付けとして分析手法を取り入れる。そうして生まれた建築は,力強く人を惹きつけるのです。
感性を分析し,好みを予測する
「iPhoneが好きな人は,スタイリッシュなデザインが好きなはず。可愛い物が好きな人の持ち物は,自然と可愛い物が多くなる。 人の感性を分析することで,“より好かれる”設計ができるかもしれない,と考えたのです」。ある空間について,縦幅,横幅,高さ,柱の数,壁の色など様々な空間情報を数値化し,被験者に好き嫌いの価値判断をさせると,人による好みのパターンがある事がわかるといいます。「新しい設計がある人の好みに近いかどうかについて,高確率で当てることができます」。一方で,好みが人によって全然違うということも実感したという宗本先生。人間観察を続け,「生物としての習性」のような行動を誘発するかたちを,建物づくりに活かそうとしています。
人の行動をつくる,建築設計
2010年に京都大学博物館で開催されたX線をテーマとした展示会「科学技術Xの謎」。全体を暗くした展示室の中で光りに照らされたレントゲン写真が浮かび上がる,という展示方法を企画しました。「暗闇では光が当たる場所に目を向ける,という人の性質を利用したんです。実際に視線の方向を調べる装置をつけて実験したら,狙い通り,明るくなったところに視線が長くとどまっていました」。
人が共通して持つ習性は,視線の動きだけではありません。例えば傾斜に寝転ぶとしたら高い方に頭を向けますし,その角度がきつめだったら寝転ばず,ふもとの場所に背を預けて座る方がいいでしょう。家の床や壁が平らで,それぞれが直角に交わらなければならないなんてルールはありません。あるところはゆったりと立ち上がって座れるようになっていたり,別の場所はちょっと寝転ぶのに都合がよかったりと,曲線で構成された家があってもいいはず。そのような新しい設計に,「こういう理由だからいいんです,と説得力をもたせるために人間の行動理論を学んでいるともいえます」。
学生よ,建築哲学を持とう
「僕が“人”を意識した設計をするように,学生にも何か軸を持ってもらいたい」そう考える宗本先生は,積極的に社会とつながり,刺激を得る場をつくっています。そのひとつとして2011年,研究室の全員が関わり,六角形と五角形のパネルを組み合わせたドーム型の施設を設計しました。「被災地の小さな集落に,仮設の集会所をつくるんです。建築を通じて,社会に関わる自分なりの考えを持つきっかけにしてほしい」。そう話す先生の想いを受け,この研究室から新しい建物を考える人材が生まれていくでしょう。