コンピューターの世界に革命を起こそう

コンピューターの世界に革命を起こそう
情報理工学部 情報システム学科 山下茂 教授

1946年に発表された,「ENIAC」と名付けられた最初期のコンピューターは,重さは30トン,幅24m,高さ2.5m,奥行き0.9mと巨大なものでした。それから50年後には縦7.44mm,横5.29mmのシリコンチップが同じ性能を再現し,今でははるかに高性能なチップが使われる機器を,誰もがポケットや鞄の中に持つようになっています。時代とともにかたちを変えてきたコンピューターは,この先どのような変化を見せるのでしょう。

山下先生

小型化の先にある限界

今のコンピューターは,電圧が高いか低いかで0か1を表し,これをデータの最小単位「ビット」として扱って計算を行なっています。これまで性能が進歩し続けたのは,回路をどんどん小さく し,チップの中に収まる数を増やしてきたからです。しかし,すでに限界が見え始めているといいます。「回路をどんなに小さくしても,原子よりは小さくできません。全く新しい概念を持ち込まない限り,性能が飛躍的に向上することはないでしょう」。そこで注目されているのが,「量子コンピューター」です。

00,01,10,11をΦΦで表す

「従来のものと異なり,1でも0でもある状態“Φ:量子ビット(キュービット)”を最小単位とすることで,一度に大量の情報を処理できるようになります」と山下先生は言います。2キュービットは22=4種類 (00,01,10,11)を,10キュービットは210=1024種類のデータを同時に表すことができます。例えば1から1024までの数字をすべて3で割った答えを計算するためには,今のコンピューターでは1024回の計算を行う必要があります。しかし10キュービットの量子コンピューターが実現できれば,1回の計算で全ての答えを同時に導くことができ,処理速度が指数関数的に増大すると考えられています。

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まだ見ぬマシンのための挑戦

量子コンピューターでは,複数のキュービットが相互作用するように結びつけながら計算を行います。例えば7つのキュービットがある場合,1回目の計算は②と③,2回目は①と②と④,3回目は④と⑥……というように結びつけていくのですが,どういう順番で,どれとどれを組にするかによって効率が大きく変わるのです。山下先生は,より少ない手順で効率よく計算が進められるように量子計算の設計を行うアルゴリズムを考案しています。
夢のコンピューター実現には,電子の位置やエネルギー,イオンの振動状態などの物理的状態をうまく制御し,キュービットという情報単位として利用できるようになることが必要です。さらに,同時に制御できる数を増やすことで計算能力を上げ,効率的な計算のための方法論をつくり上げていかなければなりません。今の技術では,まだ10キュービット程度で,2桁の数の素因数分解をできるのがやっとという状況。それでも未来の,全く新しいコンピューターの実現を目指し,物理学や数学,情報科学など様々な分野から研究が進められているのです。