ジェットエンジンの問題点を解明せよ 梶 昭次郎

ジェットエンジンの問題点を解明せよ 梶 昭次郎

笑顔で格納庫にある戦闘機やセスナ機の説明をしてくれる 梶先生の研究材料は、ジェットエンジンだ。
ジェット機の翼に付いているあの大きな装置。
当たり前のように空を飛行機が飛び回る時代でも、 まだ明らかになっていないエンジンの問題点がある。
そこに学生と先生が一緒に取り組むのが梶研究室だ。

飛行機を浮かせる力

梶 昭次郎 かじ しょうじろう
1969 年、東京大学大学院工学系研究科 博士課程修了。工学博士。同年、東京 大学助手、1972 年から助教授を務めた 後、1983 年から同大学教授。2003 年退官。 同大学名誉教授。2003 年より帝京大学理 工学部教授を務める。

梶 昭次郎 かじ しょうじろう
1969 年、東京大学大学院工学系研究科 博士課程修了。工学博士。同年、東京 大学助手、1972 年から助教授を務めた 後、1983 年から同大学教授。2003 年退官。 同大学名誉教授。2003 年より帝京大学理 工学部教授を務める。

飛行機が、滑走路で加速しながら空へ飛び立っていく。
実際に飛行機に乗った経験がない人でも、飛行場やテレビ、映画で見たことがあるはずだ。
このとき、飛行機は時速300kmくらいまで加速している。
そして、上空を飛んでいる際には時速800km以上のスピードが出ている。
これだけのスピードを出すために一役買っているのが、ジェットエンジンだ。
ジェットエンジンは、機体の進行方向から空気を吸い込み、圧縮して後ろに勢いよく吐き出す。
それにより、機体を前に押し出すだけの力を生み出しているのだ。
自転車のタイヤがパンパンになるくらいに空気を入れたときに、空気入れを外すと勢いよく空気が吹き出すように、圧縮した空気がもとに戻ろうとするときには力が発生する。
この力こそが飛行機を加速させているのだ。
さらに、ジェットエンジンの場合、空気の吹き出し口で燃料に火をつけることで爆発エネルギーを発生させ、さらなる加速を生み出すこともできる。
機体が加速すると、翼には揚力という機体を上に押し上げるために必要な力が発生する。
時速300km程度で機体を浮かび上がらせるために十分な揚力が生まれる。
そして、上空何千mという高さまで上昇し、その高さを維持して飛び続けているのだ。

超音速の衝撃波実験装置。研究室の学生とともに。

超音速の衝撃波実験装置。研究室の学生とともに。

エンジンを巡る2つのテーマ

研究室で今取り組んでいる研究には、エンジンに関係するテーマが2つある。
ひとつ目は超音速の問題だ。
超音速というのは、時速にすると1000km、音の速さを表すマッハで言うと、マッハ1.0以上のこと。
空を飛ぶものでは、戦闘機やロケットがこのスピードを出すことができる。
超音速を出すと、衝撃波と呼ばれる空気の波が発生する。
これは、騒音を招くだけでなく、機体が前に進むことをじゃまする力を発生させるため、エンジンの吹き出し口のかたちを変えることによっていかに衝撃波 をコントロールするかは昔からの課題だった。

もうひとつのテーマは、旋回失速と呼ばれるエンジン内部で起こる気流の問題だ。
エンジンのしくみが大きく関係している。
エンジンが空気を圧縮するとき、ブレードと呼ばれる細かい羽根が何十枚も規則正しく付いた装置が活躍している。
これが何重にも重なるように入っていて、その1枚1枚で空気が圧縮されていく。
たとえば、1枚目で1.2倍、2枚目で1.44倍といったようにだ。
その分、後ろに空気を吐き出したときに得られる力は大きなものになる。 この際に、ブレードの間を空気がうまく通過できなくなる現象が旋回失速だ。
一時的にエンジンに流れ込んだ空気の圧力が減少し、エンジン効率が落ちるだけでなく場合によってはブレードが破損することもある重大な問題だ。
特に、飛行機が離陸して速度を上げ、最高速に達する前に起こることが知られている。

学生とつくり上げてきた研究室

梶先生が帝京大学に赴任してきたのは2003年。
「来たときは研究室に何の実験装置もなかった」 と当時を振り返る。
まさにゼロの状態から卒研生と一緒になって研究室立ち上げが始まった。
まず取りかかったのは、梶先生が長年行ってきた超音速の研究だ。
実験では、超音速風洞装置と呼ばれる装置を使う。
衝撃波を観察するための装置だ。
ボンベのような圧力容器から圧縮空気を勢いよく流路に放出する。
そして空気が超音速の流れをつくり出すためのノズルに到達すると、測定部に衝撃波の発生時と似た空気の流れが生じる。
このときの気流の圧力や空気の密度変化を測定部で調べる。
学生とともに、この装置をすべて組み立てていった。
特に大変だったのは、通常ひとつしか観察されないはずの衝撃波が2つ観察されたときだった。
原因を調べる中で、衝撃波が装置内で跳ね返ってもうひとつ波ができているように見えていることがわかった。
そして、この影響を考慮したうえで衝撃波の影響を解析する計算機用のプログラムをつくっていった。
旋回失速に関しては、帝京大学に来て初めて本格的に取り組み始めた。
まさに学生とともに始めた研究だ。
以前勤めていた東京大学からブレードのモデルになる装置を譲り受けて研究を始め、現在では、ブレードの先端部分で起こる空気の流れの異常が旋回失速の原因になっているのではないかということを突き止めた。
このことを明らかにするために、粒子画像流速測定装置という機器を新たに導入し、詳細な研究を始めている。 常に学生とともに歩み続けながら研究を楽しむ梶先生のもとで、飛行機の性能を上げる新しい発見が生まれてくるに違いない。