それゆけ ! いいとこ取りロケット 中島俊
キャンパス内にある格納庫の奥で存在感を放つ、天井近くまでそびえたつロケットや、ソーラーパネルを広げた人工衛星の模型たち。
中島先生が研究しているのは、それを打ち上げるときに使う「推進システム」だ。
それを用いた次世代ロケットの打ち上げを目指している。
用途に応じて使い分け
はるかかなた上空に向かい、衛星などを載せて飛んでいくロケット。
内部には燃焼室があり、燃料と酸化剤をここで混合し、着火する。
そして発生した高温・高圧のガスをノズルから後ろに押し出し、その反動で飛んでいるのだ。
そんなロケットは2種類に分けられる。
ひとつ目は、別々のタンクに詰められた液体の燃料と酸化剤を混合してから着火する「液体燃料ロケット」。
上空36,000kmの静止軌道や、目的の高さの軌道に精度よく衛星を打ち上げることが可能だ。
「H2A」ロケットは、日本が世界に誇れる世界最高水準の液体燃料ロケットのひとつである。
そしてもう1種類、「固体燃料ロケット」がある。
燃料と酸化剤に、それらを固めるための粘結剤を混ぜ、型に流し込んで固めたもの。
固体であるがゆえに扱いやすいのが大きなメリットで、軍事用ミサイルや、衛星打ち上げロケットの推力を補強するブースターなどとして用いられている。
いいとこ取りの「ハイブリッドロケット」
液体燃料ロケットと固体燃料ロケット、どちらにも長所と短所がある。
たとえば、液体燃料ロケットは性能がよい一方で、燃料として用いる液体水素も酸化剤となる液体酸素も沸点が-180°C以下。
これを超えると蒸発してしまうので、タンクを極低温に維持する必要がある。
すると、全体システムが複雑になり、信頼のおけるものをつくり上げるのにコストがかかってしまうのだ。
その一方で、扱いやすい固体燃料ロケットにもデメリットはある。
一度火をつけると燃料が燃え尽きるまで止められないということだ。
その点、液体燃料の方は、パワーもあるうえに、バルブを調節することによって燃焼を加減することが可能となる。
中島先生が開発を進めている「ハイブリッド」ロケットは、双方のいいとこ取りをしようというもの。
固体燃料をチャンバーに詰めておくことで扱いやすくし、これに酸化剤となる液体酸素をバルブで調節しながら注入、点火すると、燃焼が起こる。
燃焼をコントロールできるうえ、全体システムを単純にできるのだ。
しかし現状では、ガス化速度が遅く、推力が低いのが問題点。
これをいかに速くできるかが、ハイブリッドロケット実現のカギとなる。
本物の「エンジニアリング」を
「固体燃料には、酸化剤として過塩素酸アンモニウム、燃料としてアルミナの粉末、連結剤、それを固形にするためにポリブタジエンというものを使っています。
それをミキサーで混合して、ドロドロの状態で型に流し込んで固める。
過塩素酸アンモニウムが重量比で70%、アルミナが20%、後の10%がポリブタジエン。
それが最先端の固体燃料ロケットですね」。
しかし、危険物なので大学内では扱うことが困難だ。
そこで中島先生は、代わりにポリエチレンやパラフィンなど、市販されているものを燃料にして研究を進めようと考えている。
それにより、火をつけるタイミングや、燃焼速度など、やってみないとわからない部分を実際に検証して習得することができる。
「言葉で言っても、ものを見なければわからないこともあるでしょう。実際にものに触らなければ、本物のエンジニアリングをやっていることにはならないのです」。
1945年、ドイツのフォン・ブラウンが第2次世界大戦中に打ち上げた「V2」が、世界で初めて完成されたロケットだった。
そして改良が重ねられ、高性能なロケットが次々とつくり出されてきた。
日本のハイブリッドロケットの研究は、10年以上前からJAXAで始まり、中島先生もこれに参加していた。
2003年に内之浦宇宙空間観測所所長になってからは研究に手をつけられずにいたが、2009年4月、帝京大学に赴任したのをきっかけに研究を再開した。
いずれハイブリッドロケットの打ち上げを成功させたいというのはもちろんのこと、自身が引き継いできた研究を託すことのできる後継者を育てたい、という気持ちも大きいという中島先生。
この研究室から、世界最高水準の固体燃料ロケットが送り出される日が、いつか来るだろう。